脊椎脊髄外科
診療科からのお知らせ/コラム
診療科紹介
脊椎脊髄外科は、整形外科の分野のなかでも、高度な技術と専門性を要求される分野で、主として背骨(脊椎)および背骨の中を通る神経(脊髄)の疾患、外傷、腫瘍を取り扱います。
脊椎脊髄外科 脊椎脊髄疾患について受診希望の方へ
当院整形外科では、患者数・手術件数の増加により、より高度で専門化した脊椎脊髄外科として新たな体制で診療にあたっています。首・腰・背中の痛み、上下肢のしびれ・痛み、運動障害、歩行障害、排尿障害などをきたした非常に多くの脊椎疾患の患者さんが受診されます。上位頚椎から胸椎、腰仙椎まで全ての部位のあらゆる疾患(脊椎症、椎間板ヘルニア、狭窄症、すべり症、靭帯骨化症、脊椎脊髄腫瘍、側弯症を含む脊柱変形、脊椎感染症、脊椎・脊髄外傷など)を対象としています。
当科初診外来は完全紹介予約制となっており、受診には紹介状が必要ですが、強い痛みや手足の麻痺などが見られるような早急な受診が必要な場合、予約日より早めの受診希望がある場合、受診方法や紹介状の取得方法がわからない場合などは、外来あるいは予約センターまでお気軽にお電話でご相談ください。
当科の特徴
診療体制
三好部長、竹下副部長を中心とした、整形外科の中でも脊椎脊髄外科を専門とする医師7-8名でグループとして診療しています。うち3名は日本脊椎脊髄病学会の指導医資格を有しており、この体制は県内トップクラスです。外来を初診された患者さんや、検査入院を行った患者さん、今後手術を検討している患者さんなどについては特に、必ずグループ内のカンファレンス(検討会)で治療方針等について詳細に検討を行い、細かい手術の方法も含めて部長を始め全員で議論して方針を共有します。また、術後の経過についても、担当医が必ずカンファレンスで報告してグループで情報共有します。また、すべての脊椎脊髄手術には、指導医資格を持った医師が執刀医あるいは指導的第一助手として必ず参加します。
あらゆる脊椎脊髄疾患に対応可能
脊椎脊髄外科で扱う疾患は幅広く、病院によって得意不得意がありますが、当科ではほぼあらゆる疾患に対応可能です。比較的多くの病院で手術が行われている腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症など頻度の高い疾患から、脊椎・脊髄腫瘍、重度の脊柱靭帯骨化症、環軸椎亜脱臼、稀な小児の脊椎疾患、小児側弯症、先天疾患に伴う脊椎疾患、腰曲がりといった成人期の脊柱変形に対する手術など、高度な知識と技術が必要な疾患の診療・手術まで、豊富な経験と実績があります。これらのより高度な専門性を必要とする難治性疾患の患者さんは、遠方よりご紹介されることも少なくありません。
可能な限り手術以外の治療法を優先
多くの患者さんは、手術を目的としてご紹介を頂いています。そして手術療法は、我々の最も強力な治療手段です。しかし、手術は多少なりとも体への負担を生じ、低いながらも手術合併症のリスクを負うことになります。当科では、手術目的でご紹介いただいた患者さんであっても、麻痺が強いなど緊急の手術を必要としたり、または患者さんが様々な事情で手術を強くご希望されている場合などを除いて、まずは手術以外の方法(保存的治療)での症状緩和、あるいは治療が可能かどうか再度検討します。専門的診察、各種検査を追加あるいは再検し、薬物療法やブロック療法、装具療法、場合によっては経過観察を行う場合もあります。もちろん、最終的に、あるいは病態によっては初めから手術をお勧めすることも多いのですが、手術目的でご紹介いただいていても、結果的に保存的治療で症状が緩和して手術を避けられる患者さんも多くいらっしゃいます。手術を行う場合は、必ず病態、手術療法以外の選択肢、手術をお勧めする理由、予想経過、手術に伴う合併症のリスクについての十分な説明を行い、同意を得たうえで行います。
各科との連携、安全な手術管理
当院は地域の基幹病院であり、各専門内科をはじめとする他診療科が充実し、院内での連携がスムーズに行われています。そのため、様々な合併症(循環器疾患や糖尿病、各科の疾患)を有している高齢の患者さんでも、各専門診療科のサポートのもと、術前に十分な準備を行い、できる限り安全に手術を受けていただくことが可能です。特に、重篤な疾患を有していて手術前後のリスクが高いと考えられる患者さんの場合は、ICU(集中治療室)と連携して手術前後の全身管理を行い、できる限り合併症を避けるように努力しています。
最新の手術にも対応
脊椎外科分野は日進月歩で進歩しています。常に新しい研究がなされ、新たな検査、薬剤、手術法などが開発されています。当科では、国内・海外を問わず学会や論文を通して最新の知見について研鑽を行い、安全性が確認された有効な治療法に関しては積極的に導入を行っています。手術に関しては、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症に対する脊椎内視鏡手術や、皮膚・筋肉への侵襲を低減した経皮的スクリューによる脊椎固定術、骨粗鬆症性椎体骨折に対して小さな傷でセメント充填を行うBKP手術、より小さな傷で神経周囲組織を傷つけることなく椎体間固定を行う側方侵入椎体間固定(XLIF/OLIF)など、患者さんへの負担を減らしながら従来法と同等かそれ以上の手術効果の得られる最新の“低侵襲手術”も、症例によって積極的に取り入れています。また、これまで「年のせい」「仕方ない」と諦められていた、「腰曲がり」や「首下がり」といった加齢に伴う背骨の変形によって痛みや歩行障害など日常生活に支障をきたしている患者さん対しても、最新の脊椎矯正固定手術を導入し、手術によって劇的な治療効果があげられるようになってきました。ただし、これら最新の手術を行う場合は安全性確保を最優先するため、患者さんが希望されても従来法をお勧めさせていただくこともございます。
術前には徹底的に原因を診断
脊椎手術を多く行っている病院でも、症状とMRI検査結果だけで診断して安易に手術を行い、結果的に症状の改善が得られなかったり、不必要な手術が行われてしまうことがあります。当科では、手術を行う場合は特に、可能な限り術前に症状の原因を明らかにするよう努め、より高い手術効果が得られ、不必要な侵襲をさける術式を選ぶように努力しています。そのため、緊急な場合を除き、多くの場合術前に検査入院を行っていただき、外来では難しい詳細な診察を行うとともに、レントゲンやMRIだけでなく、脊髄造影検査、造影後CT検査、各種ブロック療法(神経根ブロック、椎間板ブロック、椎間関節ブロック、仙腸関節ブロックなど)、必要に応じて神経伝導速度検査や筋電図検査などで精査を行い、結果をカンファレンスで議論して術式を決定しています。患者さんは検査が多く大変に思われるかもしれませんが、結果的に患者さんの負担を減らし、よりよい手術成績につながっていると信念を持って行っています。
頸椎椎間板ヘルニアや頚部神経根症に対してもブロック療法・手術が可能
腰痛や下肢痛を呈する腰椎椎間板ヘルニアに対しては、多くの病院で積極的に神経根ブロックや手術が行われている一方で、頚部から上肢の痛みやしびれを呈する頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症性神経根症に関しては、不快な症状が持続していても明らかな筋力低下や麻痺症状が出現しない限り漫然と薬物療法と経過観察が行われていることが少なくありません。当院では、これらの痛みやしびれを主訴とする患者さんに対しても、症状が長引いている、あるいは激烈な痛みが日常生活を障害している場合は、積極的に神経根ブロック療法を行っています。神経根ブロック療法は、その劇的な疼痛改善効果のみならず、疼痛の原因診断にもつながることから根治治療である手術療法へのスムーズな移行を可能にします。腰部神経根ブロックは多くの整形外科で行われていますが、頚部神経根ブロックは高度な技術と手間を要するため、ルーチンで可能な施設は限られています。当院では以前より頚部神経根ブロック療法を導入しており、近隣の整形外科からも数多くの患者さんのご紹介を頂いております。
腰椎椎間板ヘルニアに対する新しい治療
「椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)」
腰椎椎間板ヘルニアによる圧迫で神経根が障害を受けると、下肢の痺れ、痛み、筋力低下などの不快な症状をきたします。これまでの腰椎椎間板ヘルニアに対する主な治療法としては、まずは薬物療法やブロック注射、理学療法等の保存療法が試みられ、これに抵抗して症状が持続する場合は根治的な治療として手術療法が行われていました。しかし、2018年8月から、手術療法に変わる新たな治療法として国内で椎間板内酵素注入療法(以下ヘルニコア)が加わり、当院でも実施可能となりました。これは、局所麻酔下にヘルニアに罹患した椎間板内に酵素を含んだ薬剤「ヘルニコア」を注入して、椎間板による神経の圧迫の軽減を図る方法です。従来の手術療法では、全身麻酔と1週間程度の入院が必要であったのに対し、ヘルニコアは局所麻酔のみで実施可能で、身体的侵襲が小さいという利点を有しており、1泊のみの入院で可能です。全身麻酔が困難な方や、忙しい方、できるだけ手術以外の方法で治したいという方には有効な治療法です。本剤1回の投与により、腰椎椎間板ヘルニアの症状改善効果が期待できることから、治療の新たな選択肢として、生活の質の向上に貢献できると考えます。ただし、本治療法が適応とならない種類のヘルニアも存在し、また過去にヘルニコアによる治療を受けた方は再度この治療を受けることはできません。本治療をご希望の場合は一度受診をしていただきご相談ください。
無輸血への配慮
手術では多少なりとも出血し、時には予想外に出血が多くなる場合もあります。当科では、手術に伴う出血に対しての輸血をできるだけ避けるため(近年の輸血は安全性が格段に向上していますが、それでも感染やアレルギー反応のリスクがゼロにはならないため)、予定手術であるていどの出血が予想される場合には、できるだけ自己血貯血(あらかじめ自分の血液を採取して保存しておく)をお勧めしています。また、症例に応じて術中回収血装置を使用することで、無輸血手術を心がけています。
院内骨バンクの利用
高齢で高度の骨粗鬆症を有する患者さんに対して脊椎固定術を行う場合、その骨脆弱性や移植骨に利用できる自家骨(ご自分の骨)の量の不足から、十分な固定性が得られずに、スクリューが緩んだり、結果的に手術成績が低下する場合があります。当院では、日本整形外科学会の定める基準に則った院内の骨バンクを有しており、これを利用することで、高齢で骨粗鬆症の高度な患者さんの脊椎固定術においても良好な手術成績につながる移植骨量を確保しています。なお、骨バンクの移植骨を利用する場合は、十分に感染症などの検査を行い、同意を得たうえで行っています。なお、当院のように病院内に骨バンクを有する施設は現状では非常に限られています。
高度な医療機器の整備
より高度な脊椎手術をより安全に行うために、高額な脊椎手術専用カーボン製手術台を2台完備している他、術中コンピューターナビゲーションシステム、脊髄神経電気モニタリングシステム、高精細の手術用顕微鏡システム、最新の高解像度脊椎手術用内視鏡システム、移動式3D透視装置、手術中超音波診断システムなど、手術の安全性・確実性を高めるための機器を整備・駆使しています。また、脊椎手術を行う場合は、原則として手術室の中でも高度な清潔度を維持しているバイオクリーンルームを使用します。
小児の脊椎疾患に対する手術
京セラが運営する「関節が痛い.com」に整形外科 副部長「小児の脊椎疾患に対する手術」についての記事が掲載されました。
当院では、従来から小児の先天性疾患に伴う頚椎の環軸椎脱臼、変形に対する手術治療を行っており、全国より患者様が来院されていますが、最近は益々症例数・手術件数は増加傾向にあります。今までに当科で脊椎手術経験のある先天疾患としては、ダウン症、軟骨無形成症、変容性骨異形成症、先天性脊椎骨端異形成症(SEDC)、脊椎骨幹端異形成症、点状軟骨異形成症、Larsen症候群、Shprintzen-Goldberg症候群、Loyes –Dietz症候群、MLS症候群、Beals症候群、Sotos症候群、骨形成不全症、脊髄性筋萎縮症(SMA)、Prader-Willi症候群など数多くあります。特にこれら先天性疾患に伴う頸椎病変に対する手術に関する実績では、全国トップクラスを自負しており、関連学会などでも多くの発表を行っております。また、筋性斜頸など、「首」」の問題でありながら一般的には脊椎脊髄外科よりも小児整形外科分野での治療がなされている疾患に対しても、対応が可能です。
さらに、小児の脊椎疾患として、側弯症に代表される脊柱変形があります。変形の程度によって、軽度であれば経過観察、中等度であれば装具による保存療法を行いますが、進行性や高度な変形に対しては手術による矯正固定術を行っています。比較的頻度の高い思春期特発性側弯症だけでなく、先天性や、麻痺性・症候群性の側弯症、また年齢も乳幼児や学童期といった早期発症の側弯症に対する診療実績も近年益々増加しています。こうした早期発症かつ重度に進行した患者さんには、症例に応じてギプス療法や成長温存手術(Growth friendly surgery)を行っています。
継続的な学術活動
高度な脊椎脊髄外科の医療水準を維持すべく、常に学会や文献、研究会などで最新の知見を習得すべく努力しています。また上記のような当院の診療実績については、毎年のようにこれらの全国規模の学会や国際学会、雑誌・書籍にて発表・報告・執筆し、日本の脊椎外科の先端水準を満たし、かつその評価を受けるよう努力しております。
メディア掲載
m3.com>地域医療
・脊椎脊髄治療をより安全・精緻に、横浜労災の更なる進歩 ‐最新の手術室用移動型CT装置を導入しました‐(竹下整形外科脊椎脊髄外科副部長)
スタッフ紹介
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副院長 / 整形外科部長 / 脊椎脊髄外科部長
三好 光太/ みよし こうた
卒業年次 昭和62年 専門分野 脊椎・脊髄外科、脊髄脊椎腫瘍、小児脊椎、側弯、マイクロサージャリー 学会専門医・認定医:
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会認定指導医、日本脊椎脊髄病学会・日本脊髄外科学会認定脊椎脊髄外科専門医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本整形外科学会認定リウマチ医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
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脊椎脊髄外科部長
竹下 祐次郎/ たけした ゆうじろう
卒業年次 平成14年 専門分野 脊椎・脊髄外科、小児脊椎・側弯、脊柱変形 学会専門医・認定医:
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会認定指導医、日本脊椎脊髄病学会・日本脊髄外科学会認定脊椎脊髄外科専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
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整形外科副部長 / 脊椎脊髄外科副部長
齊木 文子/ さいき ふみこ
卒業年次 平成17年 専門分野 脊椎・脊髄外科、脊椎内視鏡 学会専門医・認定医:
日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会認定指導医、日本脊椎脊髄病学会・日本脊髄外科学会認定脊椎脊髄外科専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定脊椎内視鏡手術・技術認定医
診療実績
ある1年間の腰椎疾患に対する入院による保存療法の治療成績
入院患者数 | 最終的に手術と なった患者数 |
保存療法にて軽快した 患者数 |
保存療法にて軽快し、 手術を避けられた患者割合 |
|
---|---|---|---|---|
椎間板ヘルニア | 37人 | 6人 | 31人 | 83.8% |
脊柱管狭窄症 | 93人 | 39人 | 54人 | 58.1% |
(三好光太:腰痛疾患の基礎知識、市民公開講座講演より)
過去5年間の脊椎脊髄手術件数
年(年度) | 令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 |
---|---|---|---|---|---|
件数 | 528件 | 518件 | 527件 | 530件 | 626件 |
過去3年間の疾患別手術件数
令和3年 |
令和4年 | 令和5年 | |
---|---|---|---|
整形外科年間総手術件数 |
1,857 |
1,987 | 2,035 |
脊椎脊髄外科 |
527 |
530 | 626 |
頸椎 | 111 | 115 | 131 |
胸椎 | 33 | 29 | 38 |
腰椎 | 381 | 386 | 457 |
靱帯骨化症 | 12 | 16 | 15 |
脊髄・脊椎腫瘍 | 23 | 26 | 29 |
側弯症・脊柱変形 | 47 | 53 | 53 |
脊椎外傷 | 42 | 33 | 50 |
脊椎内視鏡手術 | 56 | 69 | 91 |
入院実績(2018年度 全国DPC対象4764病院の統計より)
入院治療患者数 | 神奈川県内順位 | 全国順位 | |
---|---|---|---|
頚部脊柱管狭窄症 | 131 人 | 2 位 | 15 位 |
腰部脊柱管狭窄症 | 494 人 |
1 位 | 10 位 |
椎間板ヘルニア | 152 人 |
3 位 | 25 位 |
脊椎脊髄腫瘍 | 28 人 | 1 位 | 15 位 |
脊椎変形(側弯・脊柱変形) |
68 人 | 3 位 | 17 位 |
頸椎頚髄損傷 | 36 人 | 3 位 |
15 位 |
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