脊椎内視鏡手術について
脊椎の手術には、大きく分けると、「固定術(スクリュー等のインプラントを使用して脊椎を癒合させる手術)」と、骨を削って神経の通り道を広げて可動性を温存する「除圧術」の2つがあります。
さらに固定術においても除圧術においても近年、なるべく身体への侵襲が少ない手術(”MIS: minimum invasive surgery”)という考えが広く浸透するようになりました。この考えは脊椎分野だけでなく、関節や外傷など整形外科の他の分野、さらに外科や泌尿器科などの別の科においても広く広まっています。
脊椎内視鏡は、脊椎の除圧術において行われている代表的な低侵襲手術です。1997年にFoleyとSmithという人物が腰椎椎間板ヘルニアについての内視鏡手術を報告して以来、日本でも広く行われるようになりました。腰椎疾患で広く行われていて、当院でも腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の除圧術の多くを内視鏡下におこなっています(写真1)。
写真 1
内視鏡下手術と一言でいっても色々な手術がありますが、当院で行なっているものはMED(microendoscopic discectomy)とMEL(microendoscopic laminectomy)です(図1)。microは”小さな“、endoscopicは”内視鏡“、discectomyは”椎間板切除“、laminectomyは”椎弓切除“という意味です。腰椎椎間板ヘルニアに対してはMED(内視鏡下椎間板切除術)を、腰部脊柱管狭窄症に対してはMEL(内視鏡下椎弓切除術)を行なっています。高齢者の方などはヘルニアも狭窄もある方もいらっしゃるので、そうした場合はMEDとMELを組みあわせたりすることもあります。
図 1
内視鏡手術の最も大きな利点は筋肉などといった軟部組織への侵襲が少ないことです。従来のやり方が筋肉を骨から剥がしてから骨を削っていたのに対して、内視鏡下手術の場合は筋肉をほとんどいためることなく、2cmほどの皮膚切開の後にtubeを挿入してtubeの中で骨を削ったりヘルニアを切除したりできるためです(図2)。身体への侵襲が少ないため、術後の体力の回復も速いです。
また、直径16mmのtubeの中に細い斜視鏡を接続することにより(写真2)、小さな術野がモニター上に大きく映し出されます(写真3)。良い視野を得ながら操作することよって、より安全性が高まると考えています。
写真 2
写真 3
手術は全例入院で行なっています。手術の前日に入院して、全身麻酔で手術します。手術の翌日から歩くことができます。手術の翌々日に、ドレーンという、切開した傷の中に血液がたまらないように術後に留置しておく管をベッドサイドで抜きます。ドレーンを抜いた翌々日に傷が問題ないことを確認して退院としています。術後も神経症状の変遷をしっかり確認する必要があると我々は考えているため、手術後4日目で自宅退院となることが多いです。トータルで入院期間は6日程度になります。6日もかかるのか、、、、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは従来の方法で行う手術と比較するとだいぶ早いです。また、筋肉への軟部組織の侵襲が少ない分、体力の回復も早いのでなるべく早く職場復帰したい方や、高齢でなるべく早くもといた環境に帰りたい方(高齢者は入院期間が長くなると慣れない環境のストレスなどで認知症症状が出たり、認知症が進行する方がいます)に大変適した手術であると考えています。
私たちの目標は、安全に手術を行なって、患者さんのQOLを上げることです。手術をしてよかった!と思ってもらい、より快適な身体の状態で社会生活を営んでいただくことです。皮膚の切開をより小さくしたり、何がなんでも内視鏡下手術だけで対応することを目標としているわけではありません。患者さんひとりひとりの病態はそれぞれ違いますので、身体所見や画像所見、ブロック結果などを踏まえて総合的に判断して手術方法をきめています。お困りの症状があればなんでもご相談いただければと思います。
主な実績
2018年度 脊椎内視鏡年間手術件数:80件(脊椎脊髄外科年間総手術件数:454件)
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