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ガンマナイフ

1.はじめに

ガンマナイフとは脳病変に対する定位的放射線外科治療の装置です。
放射線を一点に集めて治療する原理で、開頭する必要はなく、脳腫瘍、脳動静脈奇形などを治療します。健康保険が適応となっています。


ガンマナイフ治療装置パーフェクションです

ガンマナイフ治療装置パーフェクションです

※当院におけるガンマナイフ治療件数は、2021年2月に13,000例を越えました。

2.健康保険、費用

●ガンマナイフ治療に対して

平成8年4月1日より健康保険が適応になりました(厚生省告示第21号 平成8年3月8日付官報 号外第50号)。
健保適応に関しては付帯事項はなく脳腫瘍全般、脳血管奇形いずれも適応です。

一つのコンピュータ画面に、複数のCT、MRI、血管撮影画像を取り込み、図のように同時にかつリアルタイムに治療計画ができます。計画は立体でも確認ができます。(GammaPlan v.10)

3.外来予約

1.治療日
原則として週3回、月・水・金曜日に1日4例ずつ、計週12例の治療を行っています。多いときには、週13~16例の治療を行うこともあります。月曜日に治療する場合は土曜日あるいは日曜日に入院していただきます。水・金曜日の場合はその前日です。

2.ガンマナイフ専門外来
月・水・金曜日(午後2時~4時30分)にガンマナイフ専門外来を行っております。可能であれば、紹介状やCTないしはMRI等の画像検査結果をご持参ください。ガンマナイフ専門外来は原則として電話による受診予約をお願い致します。(当院予約センター:電話番号:045-474-8882 / 045-474-8883 / 045-474-8884にて承っております)
先生方からのご紹介や適応に関するお問い合わせは、手紙・電話のいずれでも結構です。月~金曜日(午前9時~午後5時)に脳神経外科ガンマナイフ担当医師(周藤 高、松永成生)までご連絡下さい。

連絡先:脳神経外科 周藤 高、松永成生

3.ガンマナイフ治療のために受診される方へのお願い
当院脳神経外科には、ガンマナイフ治療のために関東一円の様々な病院から患者さんが紹介されていらっしゃいます。このため、1日に多数の患者さんが受診されることがあります。
私どもは一人一人の患者さんについて、ガンマナイフの適応を慎重に判断し、詳しく説明させていただき、十分に理解・納得をしていただいた上で治療を行いたいと考えています。そのためにはどうしても一人の患者さんに費やす診療時間が長くなる傾向があり、比較的長い時間お待ちいただくことがあります。長時間お待たせすることは、私どもといたしましても決して本意ではございませんが、治療をお受けになられる患者さんに十分な説明をさせていただくことが最も重要なことであると考えています。
どうか私どもの考えをご理解いただき、ご容赦下さいますようお願い申し上げます。

4.原理

ガンマナイフとは脳病変に対する定位的放射線外科治療の装置です。半球状に配置された192個の線源(コバルト60)から出たガンマ線を脳病変領域に極めて正確に集束し高線量として照射し治療します。

192個から出るガンマ線は一つ一つは微弱でこれらのビームが集中して高度の線量となり病巣領域に正確に当たるようになっており、誤差はミリメートル以下です。

192個の放射線がレンズの焦点のように一点に集まります。 192個から出るガンマ線は一つ一つは微弱で、これらのビームが集中して(黄色矢印)高度の線量となり病巣領域に正確に当たり、照射治療します。

いくつものショットを重ねて立体構造を作ります(左図)。複雑な構造を持った病変でも計画でき、病変全体を覆うことができます。(右図:黄色線で腫瘍を完全に取り囲んでいます。)

したがって、病変周辺の脳実質や血管などには照射線量は極めて少なく、放射線の影響が最小限になるようにしてあります。従来の手術では到達しにくかった脳深部や危険な部位でも照射治療できるようになりました。合併症のため手術の危険度が高い人や高齢の方でも治療可能となりました。また手術でとりきれなかった腫瘍、動静脈奇形や再発腫瘍に対しても効果が発揮されます。

  • 局所麻酔後、頭部に4点のピン(スクリュー)でフレームを固定し装着します。
    剃髪する必要はありません。

ガンマナイフ治療自体は全く無痛です。開頭しませんので手術的侵襲はなく、一般に入院は3~4日ですみます。

治療(照射)は完全に自動で行われます。患者さんの頭部を固定した台(赤矢印)が0.1mm単位で極めて微細にかつ速やかに移動し、病巣に正確に照射します。患者さんのわずかな移動の際にもコバルト線源(青矢印)が遮蔽(しゃへい)されるため、病巣部以外の被爆は非常に少なくなります。その被爆線量の少なさは、他の治療機器に比して圧倒的です(後述)。

当院は1991年の開院以来、代表的な定位的放射線治療装置であるガンマナイフによる治療を積極的に行い、総治療件数は12,000例を超えています。

そして、当院のガンマナイフ治療装置は2009年7月にガンマナイフ・パーフェクションに更新されました。

このレクセルガンマナイフ・パーフェクションモデルにおいてはシステムが完全に自動化されており、一回の操作で治療を完了できるため 従来モデルに比して大幅に治療時間を短縮でき、患者さんの負担が格段に少なくなっています。また、あらたな設計により従来では治療が困難であった部位も治療可能となり、頭蓋内のほとんどの部位をカバーできます。したがって、従来治療が困難であった頭蓋底深部や頭蓋頚椎移行部、頭蓋外側部等の治療が問題なくできるようになりました。さらに多発脳転移への対応がより容易になったことは特筆すべき改良点です。治療計画用ソフトのバージョンアップと治療可能領域の拡大により、10個以上の多発脳転移に対しても容易に治療が可能となりました。これにより、全脳照射をできるだけ避けたいという主治医の先生や患者さんの希望に添うことが多くの例で可能になったと言えます。ガンマナイフは転移性脳腫瘍に対する治療を大きく変えましたが、ガンマナイフ・パーフェクションモデルは更に大きな変革をもたらす可能性を持っています。

またこのモデルの放射線遮蔽能力は同等のシステムと比べて最大100倍高いものとなっており、患者さんへの安全性も向上しています。全体の放射線レベルは治療室に窓をつけることができるほど低いものです。他の放射線治療装置と比較してもガンマナイフ・パーフェクションモデルは患者さんの被爆が圧倒的に少なくなっています。これは特に良性疾患を持った患者さんの治療においては非常に重要なことです。

ガンマナイフ・パーフェクションモデルの治療精度は極めて高く、332項目の試運転手順に基づく189の設置システムの検証では、平均で0.15mmという驚くべき放射線学的精度レベルが立証されています。現在多くある放射線治療装置の中で、ガンマナイフがもっとも誤差が少なく照射精度が高いことは間違いありません。

現在使用されている各種放射線治療装置(最新モデル以外のガンマナイフを含む)の照射ポイント以外の放射線量の比較を表したグラフです.縦軸は放射線の強さの比率、横軸は照射ポイントからの距離を示しています.パーフェクションモデルは圧倒的に放射線量が少ないことがわかります.すなわち、パーフェクションこそ、ピンポイントという定位放射線治療の真髄です.なお、このグラフは以下の論文からの引用です.

Christer Lindquisら:THE LEKSELL GAMMA KNIFE PERFEXION AND COMPARISONS WITH ITS PREDECESSORS. Neurosurgery 61:ONS-130–ONS-141, 2007

なお、当院では2020年12月よりガンマナイフの最新機種であるガンマナイフIconTM(アイコン)が稼働しています。ガンマナイフ アイコンの一番の大きな特徴は頭部固定においてマスクシステムが導入された点にあります。
アイコンではプラスチック製のフェイスマスクで顔面を覆い頭部固定を行うことが可能になります。
ただし、頭部固定の方法は患者さんの状態や病変の状況によって医師が最適な方法を選択いたします。そのためマスクシステムではなく従来通りフレームをピン固定して治療を行う場合も多くあります。

フェイスマスクを用いた治療には以下のような特徴があります。

① 患者さんの負担が軽減されます

マスクシステムの導入によって無侵襲での頭部固定が可能となるため患者さんの身体への負担がこれまでよりも軽減されます。

② 大きな病変に対する分割照射が容易になります

これまでも当院ではフレーム固定以外にマウスピースを用いた頭部固定によって大きな病変に対する分割照射を行ってきました。しかしマスクシステムの導入によって患者さんの負担がさらに軽減するためこれまで以上に容易に分割照射を行うことが可能となりました。

③ 照射位置を自動補正し正確な照射が可能となります

アイコンでは照射位置を実際の患者さんの位置に合わせて自動的に補正するシステムを搭載しています。機器に付属したコーンビームCTで実際の治療位置における頭部画像を取得し、治療前にMRI画像を基に立てた治療計画をCT画像に合わせ込む形で補正し正確な照射が可能となります。

④ 照射中は身体の動きを常にチェックしています

照射中は安全性と正確性を確保するために頭部の位置情報を赤外線で正確にとらえ追跡するシステム(リアルタイムHDモーションマネージメントシステム)を用いることで常時患者さんの身体の動きを監視しています。設定範囲を超えての動きによるズレが発生した場合には瞬時に照射を停止し正常細胞への照射を防ぎます。

当院ではガンマナイフに加えリニアックの高精度放射線治療装置であるノバリスも稼働しており頭蓋内病変に対する放射線治療として多くの選択肢を持っています。

当科では、手術・薬物療法に加え最新の放射線治療を適切に組み合わせることにより疾患に応じた最善の治療を提供することが可能です。

肺癌からの脳転移です(左写真赤矢印)。腫瘍が比較的大きかったため、エクステンドシステムを用いて5回に分けての照射を行いました(計35Gy/5回)。6か月後の頭部CT検査(右写真)では腫瘍の著明な縮小が確認できます。

乳がんからの多発能転移です(上段赤矢印)。5分割で照射しました。下段は1年後のMRI画像ですが腫瘍はいずれも縮小ないしは消失しています。

5.適応

●適応:脳腫瘍→聴神経腫瘍、髄膜腫、転移性脳腫瘍、下垂体腫瘍、小脳血管芽腫、頭蓋咽頭腫、松果体腫瘍、胚芽腫など。脳血管障害→脳動静脈奇形など。全身麻酔にも対応しているため小児でも治療可能です。

●一般に良性腫瘍はガンマナイフ治療により完全に消失することはありません。ガンマナイフ治療の主目的は腫瘍の発育をおさえることです。すなわち良性腫瘍は縮小ないしは不変が効果ありとしています。


<5-1>聴神経腫瘍

2020年11月までに約1,100件の聴神経腫瘍を治療しました。聴神経腫瘍は良性腫瘍であることから、その腫瘍の成長を抑えることもさることながら、腫瘍に接して走行している顔面神経の機能を温存すること、あるいは聴力が残っている場合には、その聴力を温存することが重要になってきます。
聴神経腫瘍は72%が縮小(平均元の体積の半分程度まで縮小します)、20%は大きさはかわりません。したがって約90%が有効といえます。しかし、7~8%はガンマナイフ治療をしても増大してゆき、手術などの後治療を要します。副作用としての顔面神経麻痺は一過性が8%、永久に残ったのは2.6%でした。聴力は一般に一段階落ちます。なお、現在では照射線量を下げるなどの工夫により、顔面神経麻痺の頻度は1~2%まで減少しています。有効聴力の温存率は約70%です。

聴神経腫瘍の変化(症例群110例)

3~6ヶ月で中央部が壊死におちいり少し膨化します。9~12ヶ月で徐々に吸収され、その後縮小してゆくのが典型例です。増大してからゆっくりと縮小していく腫瘍もあります。一つ一つは多様ですが、平均すると元の大きさの半分まで縮小します。(太い赤線)縦軸は体積(治療時が100%)、横軸は月数。

聴神経腫瘍:ガンマナイフ治療後の典型的な経時的変化です。3~6ヶ月で中央部が壊死におちいり、少し膨化します。12ヶ月より徐々に吸収され、その後縮小してゆき3年後には、はっきりと縮小しています。7年たってもまだ縮小し続けています。
現在では、治療に際してMRIに加えてCTを行い、両者の画像を融合させてより精度を高めたり、小さなショットを多数組み合わせて腫瘍の形状にぴったりと線量分布を合わせること、比較的低い線量を用いること等により、ガンマナイフ治療を行ったことで顔面神経麻痺をみることは非常に稀になっています。一方、聴力温存率に関しては、良くて70%程度と言わざるを得ません。特に治療前に聴力がかなり落ちている場合には、厳しいと考えられます。また、耳鳴りについては残ってしまうことが多いようです。
5%程度の患者さんに、三叉神経障害による顔面のしびれ感や知覚鈍麻が見られます。
これは、腫瘍自体の圧迫によりガンマナイフ治療前から見られることも少なくありませんが、照射後の一過性増大に伴って、顔面しびれ感が強くなることがあります。
聴神経腫瘍に対するガンマナイフ治療後に脳脊髄液の循環障害から、いわゆる水頭症を呈することがあります。患者さんによってはガンマナイフ治療前からこの状態になっていることもあります。水頭症になると徐々に頭痛や歩行障害、視野・視力障害が進行するため、これらの症状出現にも注意を払う必要があります。水頭症の状態を生じた場合には、脳室腹腔短絡術とよばれる手術(手術時間は全身麻酔下で30分~1時間程度)で治療することが可能です。

嚢胞のある聴神経腫瘍です。一時膨化しましたがその後、著明に縮小しました。

嚢胞のある聴神経腫瘍です。一時膨化しましたがその後、著明に縮小しました。

聴神経腫瘍のガンマナイフ後の一過性増大はおよそ60%にみられます。これはガンマナイフ治療時の腫瘍サイズには関係なく生じてきますが、もともとのサイズが大きい場合には、この一過性増大に伴って何らかの症状を呈してくることがあります。この増大の程度は体積でみるとガンマナイフ後半年で平均約20%程度の増加と算出されます。しかし中には体積が2倍近くになることもあります。通常この一過性増大はガンマナイフ後半年から1年以内に落ち着きますが、4%の患者さんで2年以上遷延します。もともとが嚢胞性(中に液体成分を含んでいる袋状の腫瘍)である場合には、この一過性増大が強い傾向にありますが、最終的な腫瘍制御率は嚢胞性でない腫瘍と比べて治療成績が悪いということはありません。
なお、上記は以下の論文を参考にしています。
Iwaiら:Surgery after radiosurgery for acoustic neuromas: surgical strategy and histological findings. Neurosurgery 60(2 Suppl 1):ONS75-82, 2007

ガンマナイフ後の聴神経腫瘍手術は、ガンマナイフが行われていない例に比して難しくなることが知られています。しかし実際には適応を誤らなければ、聴神経腫瘍に対するガンマナイフ治療後に手術を必要とすることは稀です。以下に当科でガンマナイフ治療後に手術を行った12例に関する成績を記します。
男性5例、女性7例でガンマナイフ治療時の年齢は平均53.7歳でした。ガンマナイフから手術までの期間は平均42.4ヶ月(6.6-120ヶ月)で、4例ではガンマナイフ前にも手術が行われていました。ガンマナイフ時の腫瘍体積は平均6.9cc(0.5-19.7 cc)でした。1例を除き摘出に際して腫瘍からの出血は少量で、照射による影響と考えられました。脳幹への強い癒着は7例で認め、顔面神経と腫瘍の剥離は多くの例で癒着や神経の色調変化のために容易でありませんでした。2例で三叉神経と腫瘍に強い癒着を認めました。腫瘍は大部分の例で内耳孔部近傍を除いて摘出し得ました。残存腫瘍の増大を来して2回目のガンマナイフ治療が必要となったのは1例のみでした。術後の顔面神経機能は悪化3例、不変7例、改善2例でした。以上のことから、結論としてガンマナイフ後の開頭手術では顔面神経と腫瘍の剥離は困難なことが多いですが、一方、残存腫瘍の増大をみることは稀であり、顔面神経機能を温存した上での亜全摘ないしは部分摘出が推奨されると考えています。

非常に稀ですが、聴神経と並行して走行している顔面神経に神経鞘腫が生じることがあります。膝状神経節といわれる部位をはじめとして顔面神経のあらゆる部位に生じ得ますが、画像所見が特徴的であれば診断は容易です。経過中に顔面神経麻痺の既往がみられることが多いといわれています。手術摘出も可能ですが、全摘出した場合には神経再建を要し術後の顔面神経麻痺が避けられません。一方、ガンマナイフでは合併症としての顔面神経麻痺を来たすことは少なく、むしろ改善が約1/3でみられると報告されています。ガンマナイフ治療によって顔面神経鞘腫を抑え込める確率はとても高く、良好な治療成績が報告されています。
なお、上記は以下の論文を参考にしています。
Litreら:Gamma knife surgery for facial nerve schwannomas.  Neurosurgery 60:853-859, 2007
Kidaら:Radiosurgery for facial schwannoma .  J Neurosurg 106:24-29, 2007

右聴神経腫瘍です(左写真の赤矢印)。右はガンマナイフ治療4年後の頭部MRI検査です。腫瘍が明らかに縮小しているのがわかります。

比較的小さな聴神経腫瘍です(左写真赤矢印)。ガンマナイフ治療を行い、2年後には明らかに縮小しています(右写真青矢印)。治療前から2000Hz領域の聴力低下がみられましたが、治療後はその状態を維持しています。

以下に聴神経腫瘍に対するガンマナイフ治療後の聴力に関する論文を紹介します。
2001年から2007 年の間にイタリアの著者らの病院で治療したすべての患者のうち、実用的な聴力のある片側性聴神経腫瘍患者さん50人を後方視的に検討しています。患者さんの年齢の中央値は54歳(24-78歳)でした。腫瘍容積中央値は0.73ml(0.03-6.6ml)と小さな腫瘍が多く、辺縁線量の中央値は13Gy (12-16Gy)でした。ちなみに当科では基本的には12Gyという辺縁線量を処方しています。
本論文では、年齢、腫瘍の大きさ、そしてもともと存在した症状がガンマナイフ治療後の聴力温存に関連していると指摘しています。治療後36ヶ月の時点で、腫瘍制御率は96%で、他の追加治療が必要な患者さんはいなかったとのことです。実用的な聴力は34 人(68%)で温存されていました。残りの16人はガンマナイフ治療後の有効聴力の温存ができなかったとのことです。実用的な聴力を維持するために重要な予後因子は、治療前の聴力が良好であること、年齢が54歳以下であること、そして、腫瘍が小さいこと、ということでした。結論として、著者らは聴神経腫瘍に対するガンマナイフは、患者さんの聴力を温存できる可能性が高いといっています。

上記の内容は、以下の論文の内容をまとめたものです。
Franzin Aら:Evaluation of hearing function after gamma knife surgery of vestibular schwannomas. Neurosurg Focus (6):E3, 2009


以下に聴神経腫瘍に対するガンマナイフ治療後の長期成績に関する論文を紹介します。
ガンマナイフ治療を行なった117人の治療結果の解析です。治療後少なくとも5年以上経過した患者さんを対象としています。患者さんの平均年齢は60.9歳でした。腫瘍体積の平均値は1.95+/-2.42mlでした。82%の例で13Gyの照射がなされ、14%には12Gyで照射されていました。
患者さんの53%で腫瘍の大きさが変わらず、37.9%は放射線学的に顕著な反応がみられました。腫瘍の増大は8人(7.8%)でみられましたが、これらのうち3人では最終的に安定したと報告しています。
5人の患者さんのみにガンマナイフ後の手術が必要となりました。腫瘍が増大して手術が必要となった1 、3 、5年後の率は、それぞれ1、4.6、8.9%でした。1%に三叉神経障害が生じ、5%に顔面神経障害が残り、4%にめまいがみられ、8%にガンマナイフ治療後に新たな歩行時平衡障害が生じたと報告しています。

結論として、ガンマナイフ治療は聴神経腫瘍の患者さんにとって、合併症が少なく、すぐれた腫瘍制御率が得られるとしています。

上記の内容は、以下の論文の内容をまとめたものです。
Murphy ESら:Long-term outcomes of Gamma Knife radiosurgery in patients with vestibular schwannomas. J Neurosurg 114:432-440, 2011

聴神経腫瘍に対するガンマナイフ治療後の味覚障害は中間神経と呼ばれる神経の機能障害に起因します。
ガンマナイフ後の中間神経障害に関する報告として以下のものがあります。
2005年から2010年の間に聴神経腫瘍に対する最初の治療として(つまり過去に手術が行われていない)ガンマナイフが施行された65例について検討しています。患者に直接インタビューし、50名から回答を得ています。50例中9例(18%)においてガンマナイフ治療前から、聴神経腫瘍自体による中間神経障害としての、涙や唾液量の減少や味覚障害が認められました。ガンマナイフ治療前には中間神経障害がみられなかった41例のうち、9例(22%)にガンマナイフ治療後少なくとも一つの中間神経障害による症状が出現しました。
流涙障害に関しては、ガンマナイフ後の障害出現率は11.1%で、このうち回復が得られたのはその10%でした。
唾液分泌障害は6.2%に、味覚障害は16%に生じていました。味覚障害を来した患者さんのうち、その後の回復は37.5%でみられました。ガンマナイフ治療前後とも顔面神経麻痺を来した例はありませんでした。腫瘍の大きさや線量、患者の年齢と、ガンマナイフ治療後の中間神経障害の間には有意な相関は認められなかったとのことです。
なお、上記の内容は以下の論文の内容をまとめたものです。
Park SHら:Nervus intermedius dysfunction following Gamma Knife surgery for vestibular schwannoma. J Neurosurg 118:566-570, 2013

聴神経腫瘍に対するガンマナイフ後の手術に関して、私どもは以下のような論文を発表しています。
Microsurgery for Vestibular Schwannoma after Gamma Knife Radiosurgery.Acta Neurochir (Wien) 150:229-234,2008
Two cases of cystic enlargement of vestibular schwannoma as a late complication following gamma knife surgery。J Clin Neurosci 33:239-241, 2016

<5-2>髄膜腫

髄膜腫はもともと発育は緩徐のものが多く、長期の追跡を要します。腫瘍の発育を抑えるという点からはかなり有効と言えます。著明な縮小は示しません。少しキュッと縮む程度です。

当院でガンマナイフ治療を行ったケースの中・長期的なフォローアップの調査結果では、腫瘍サイズは縮小50%、不変 42.2%、増大は7.8%で、腫瘍制御(腫瘍の増大阻止)は92.2%で得られました。治療後の嚢胞の出現ないし増大が4.7%で認められ、この点には注意を要すると考えられます。腫瘍周囲の浮腫は12.5%に生じ、これは照射後平均6ヶ月で出現していました。髄膜腫の場合、この浮腫は頭蓋底部の腫瘍では少なく、円蓋部(頭のてっぺんに近いほう)でリスクが高いことが知られています。明らかな放射線壊死は3.2%にみられました。また、ガンマナイフ治療後に腫瘍摘出等の外科的処置を要した例は4.7%でした。
これらの結果から、髄膜腫に対するガンマナイフ治療は中・長期的にも腫瘍制御(少なくとも腫瘍が大きくならないこと)を90%以上で得られ、有効性は高いと考えられますが、腫瘍周囲の浮腫出現は稀ではなく、特に円蓋部髄膜腫の場合には、その適応の診断には慎重な姿勢が必要と考えています。

頭蓋底部に生じる髄膜腫のうち、海綿静脈洞と呼ばれる場所に生じるもの(海綿静脈洞部髄膜腫)は手術が非常に難しく、眼球運動障害等の合併症を生じやすいことが知られています。このように海綿静脈洞部に代表される、手術的治療が非常に困難な場所の腫瘍がガンマナイフ治療の良い適応といえます。当科にて1992年2月以降ガンマナイフを行った海綿静脈洞部髄膜腫40例の検討結果は以下のとおりです。

男性12例、女性28例でガンマナイフ施行時の平均年齢は54歳でした。16例においてガンマナイフ施行前に開頭術が施行されていました。平均フォローアップ期間は5.2年(36ヶ月-112.4ヶ月)で、腫瘍の縮小を47.5%に認め、他は不変であり、当院症例に増大例はみられませんでした。ガンマナイフ治療時に脳浮腫を伴った例はありませんでした。照射後の脳浮腫は3例に平均3.7ヵ月後に出現していましたが、いずれも保存的治療により改善が得られました。ガンマナイフ施行時に第2-6脳神経症状をのべ52症候認めましたが、うち14症候(26.9%)においてガンマナイフ後に症状の改善がみられました。殊に動眼神経麻痺の改善頻度が他の脳神経に比して良好(43.7%)である傾向にありました。これらのことより、ガンマナイフにより海綿静脈洞部髄膜腫の良好な腫瘍制御が期待できます。直達手術に対する優位性は、その低侵襲性に加え、外眼筋麻痺をはじめとした神経症状の改善が望める点にあると考えられます。

髄膜腫に対するガンマナイフ治療に関して、私どもは以下のような論文を発表しています。
Cyst formation following gamma knife surgery for intracranial meningioma.J Neurosurg Suppl:134-139, 2005

著しい頭蓋外進展をきたした傍矢状洞髄膜腫の1例.Neuro-Oncology 17:18-22、2008

髄膜腫に対するガンマナイフ治療後のまれな合併症としての嚢胞形成について.定位的放射線治療 13:65-72, 2009

髄膜腫はガンマナイフ治療後増大例は少なく、有効度は高いと言えます。聴神経腫瘍のような縮小は示しません。少しキュッと縮む程度です。

海綿静脈洞部と呼ばれる部位に発生した髄膜腫(左写真の赤矢印)です.この部位は手術操作に伴う合併症リスクが非常に高く、適応であれば放射線治療を優先すべき場所です.ガンマナイフ治療を行い、その9年後には何らの合併症もなく腫瘍の顕著な縮小が明らかです(右写真の赤矢印)

70代女性の髄膜腫(左写真赤矢印)です。他院で手術が行われガンマナイフのために当科を紹介受診しました。辺縁線量16Gyという線量でガンマナイフ治療を行いました。右は3年後のMRI画像ですが、腫瘍は明らかに縮小しています。

70代男性の髄膜腫(左写真赤矢印)です。他院で手術摘出後の再発に対してガンマナイフ治療を依頼されました。異型髄膜腫という細胞分裂能が高いタイプであったため、辺縁線量は20Gyと、通常の髄膜腫に対するよりも強めに照射しました。右は2年後のMRI画像ですが、腫瘍は消失しています。

<5-3>転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍は完全におさえこむことが必要です。80~90%が有効といえます。多発でも再発でも治療します。多発の場合は2回に分けて治療することもあります。原発腫瘍が治療されていることが理想ですが、なかなかそのような良い適応例はありません。頭部を治療しても、原発腫瘍で亡くなるかもしれません。転移性脳腫瘍に関しては、医師各々の考え方・哲学があるわけですが、転移性脳腫瘍で亡くなるということを負担の少ない治療によって阻止し、その結果有意義な時間がより多くもてれば有効といえます。多発性など相対適応であっても可能ならば治療してゆきたいと我々は考えています。
また、脳幹部は放射線治療に対し比較的脆弱なため、従来放射線治療が難しい部位であると考えられてきました。しかし、同時に脳幹部は転移性脳腫瘍が比較的よく生じる部位でもあります。横浜労災病院において1992年2月から2001年11月までにガンマナイフ治療を行った転移性脳腫瘍936例(2,904腫瘍)のうち、93例(9.9%)に脳幹部への転移巣を認めました。当院では脳幹部の転移巣に対しても脳幹に障害を生じることの少ない線量で積極的にガンマナイフ治療を行っております。私どもの検討では、腫瘍の縮小に不変例も加えた腫瘍制御率(ガンマナイフ治療によりそれ以上は腫瘍が大きくならなかった率)は78.8%でした。
また、従来放射線治療抵抗性とされてきた腎癌脳転移や悪性黒色腫に対してもガンマナイフは有効であるとされています。当科にて1992年2月以降ガンマナイフ治療を行った腎癌脳転移58例(男性46例、女性12例)の検討結果を以下に記します。
58名に計86回(1-8回:平均1.5回)のガンマナイフを行い、初回治療時の平均年齢は63.8歳でした。治療時の平均腫瘍数は3.1病変で、腫瘍の消失を34.2%、縮小ないしは不変を47.7%、増大を18.1%に認めました。すなわち腫瘍制御率(腫瘍がそれ以上は大きくならない確率)は81.9%でした。このことから、腎癌脳転移に関してもガンマナイフ治療による腫瘍制御は比較的良好であると考えられます。また、ガンマナイフ後に生じた脳内他部位の新転移巣に対しても、可能な限りその都度ガンマナイフを行うことにより脳転移制御をはかることが望ましいと考えています。

乳癌は転移性脳腫瘍の原発癌として、肺癌に次いで多い腫瘍です。当科で乳癌脳転移に対する初回治療をガンマナイフで行った場合の治療成績は以下の通りです。
2010年までに当科でガンマナイフを施行した乳癌脳転移328症例のうち、腫瘍数10個以下、最大腫瘍径3cm未満、腫瘍総体積15cc以下の条件を満たす101症例について検討しました。ガンマナイフ施行後の新たな脳転移出現に関しては比較的若い患者さんと初回ガンマナイフ治療時の腫瘍が5-10個の例において頻度が高い傾向がみられました。総計600病変に対して平均辺縁線量19.0Gyで照射を行い、奏功率83.2%と良好な治療成績でした。治療時の腫瘍体積が小さいほど、良い結果が得られていました。乳癌表現型に関してはHER2陽性乳癌が有意に長期生存でしたが、新規病変出現に関しては表現型間に差はありませんでした。以上より、乳癌脳転移において初回治療時の腫瘍数が5-10個の例においては、それ以下の患者さんに比して新規病変出現率が高いと考えられます。従ってこれらの患者さんや脳転移後に長期生存が期待されるHER2陽性乳癌の患者さんに対しては特に定期的な画像追跡を行い新規病変に対しては積極的に追加照射を考慮するのがよいと考えられます。

また、大腸癌は近年日本人にも増えており、転移性脳腫瘍の原発癌としての重要性を増しています。当科でガンマナイフを開始した1992年から2008年までの期間において、ガンマナイフを行った大腸癌脳転移152例の治療成績は以下の通りです。
男性102人、女性50人、年齢は35~85歳で平均64歳でした。画像上の効果は消失、縮小ないしは不変、増大に分類し前2者を腫瘍がうまく制御されたと判断しました。治療時の腫瘍体積は平均2.0cc、腫瘍辺縁に対して平均18.5Gyの照射が行われていました。ガンマナイフ施行後のMRIあるいはCTでの画像追跡期間は平均6.4ヶ月(1~93ヶ月)でした。画像上の治療効果判定では、消失;79病変、縮小;215病変、不変;268病変、増大;54病変で、腫瘍制御率は91.2%と良好な治療成績でした。しかし腫瘍体積が大きくなるに従い結果は悪くなる傾向にありました。以上より、放射線抵抗性と考えられている大腸癌からの脳転移に対するガンマナイフは他の原発がんと比較してもほぼ同等の満足すべき腫瘍制御効果が期待できると考えています。
今後、大腸癌においても近年著しく進歩している化学療法の分野で、原発巣に対する効果のみならず脳転移に対しても発症予防効果や腫瘍制御効果を有する薬剤の研究が進み、将来的にはこれらの化学療法によって脳転移発症を少しでも抑制し、脳転移発症時には早期にガンマナイフにより腫瘍制御を図るという、より侵襲度の低い治療法が主体となっていくと考えられます。

転移性脳腫瘍はCTやMRIの画像上、比較的くっきりと周囲脳との境界が明瞭に描出されることが一般的です。しかし、実際には周囲脳への浸潤がみられることも少なくなく、当科ではこの点も考慮に入れた上でガンマナイフの治療計画を立てています。Baumertらの報告によれば、転移性脳腫瘍の63%において組織学的に明らかな周囲脳への浸潤が認められています。肺小細胞癌や悪性黒色腫からの脳転移では1mmないしはそれ以上の浸潤がみられ、その他の腫瘍からの脳転移では1mm以下の浸潤が認められました。これらの病理組織学所見からは、ガンマナイフ治療において腫瘍制御に必要な線量を照射する範囲は、画像検査上の境界領域に1mm程度の余裕を持たせた領域にすることが望ましいと考えられます。

転移性脳腫瘍の周囲脳への浸潤に関しては、以下の論文を参考にしています。
Baumert BG, et al. A pathology-based substrate for target definition in radiosurgery of brain metastases. Int J Radiat Oncol Biol Phys 66:187-194., 2006

なお、転移性脳腫瘍にはしばしば脳浮腫を伴い、この脳浮腫により麻痺や失語、痙攣といった症状を呈することが少なくなく、転移性脳腫瘍の治療においてはこの脳浮腫の制御も重要です。当科では、ガンマナイフによる脳浮腫の改善に関しても研究を行っています。その成績を以下に記します。
肺癌、乳癌および腎癌からの転移性脳腫瘍のうち、ガンマナイフ治療時に明らかな脳浮腫を伴っており、かつ3ヶ月以上の画像フォローがなされている病変を検討対象としました。肺癌および乳癌脳転移は上記を満たす連続100病変を、腎癌脳転移は80病変について解析を行いました。
MRI画像上の脳浮腫における直交する2軸を乗じた最大値を算出し、ガンマナイフ治療前後の両者の差を浮腫改善度としました。ガンマナイフ治療時の測定平均値は肺癌2.39、乳癌2.54、腎癌3.95、最終画像上の測定平均値は肺癌0.85、乳癌0.65、腎癌1.79と、いずれも腎癌で明らかに高値でした。すなわち最終フォローアップ時においては腎癌脳転移では他に比して脳浮腫が強く残っている傾向にありました。しかし改善度は肺癌1.54、乳癌1.88、腎癌2.16と統計学的な有意差はみられませんでした。腫瘍そのものの制御率は肺癌、乳癌、腎癌の間に差はみられませんでした。脳浮腫に関する統計学的解析において、ガンマナイフの際に照射する放射線の強さと原発が腎癌であるか否かが制御に関係していました。
以上より、腎癌からの脳転移は未治療時の脳浮腫が肺癌や乳癌に比して強いことが明らかとなりました。このため結果的にガンマナイフ後にも脳浮腫が残る傾向にあり、ことに脳浮腫による症状が出ている場合においてはこれが患者さんの日常生活に大きく影響し得るため、治療戦略を考慮する際には手術摘出を含め十分な検討が必要と考えられます。

かなり大きい腫瘍ですが、急速に縮小しています。(矢印)

かなり大きい腫瘍ですが、急速に縮小しています。(矢印)

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脳幹部腫瘍の例です。一般には手術はできません。
ガンマナイフ治療後、著明に縮小しており、歩行が可能になりました。

また、転移性脳腫瘍の場合には、一旦ガンマナイフ治療により腫瘍が消失しても時間を経て他の部位に新たな転移を生じる場合があります。このような場合、当科ではガンマナイフを可能な限り繰り返して行うことにより治療をしています。
当院において転移性脳腫瘍に対してガンマナイフ治療を行った患者さんのうち、1.5%の方が4回以上ガンマナイフ治療を行っています。その際、各回に1人平均約3病変に対して照射を行い、各照射までの平均間隔は約4.8ヶ月でした。これらの方の経過中の神経症状は概ね良好に保たれていました。
以上より、当科では新たに生じた転移巣に対して繰り返しガンマナイフ治療を行うことは、転移性脳腫瘍に対する治療戦略の1つとして十分に考慮し得るものと考えています。
なお、比較的大きな転移性脳腫瘍に対しては当科では積極的に分割照射を行います。前述のエクステンドシステムあるいはノバリスSTxという高精度放射線治療装置を用いることにより、容易に分割照射を行うことが可能です。この場合、分割回数にもよりますが、入院期間は1-2週間程度となります。ノバリスSTxについては、別項をご覧ください。

肺癌からの脳転移です。比較的大きな腫瘍が2か所(左写真の赤矢印)にみられます。サイズが大きいことから、この患者さんにはガンマナイフを用いた5分割照射による治療(35Gy/5回)を行いました。治療は問題なく行われ、3か月後の頭部MRI検査(右写真)では腫瘍はみられなくなっています。

乳がんからの脳転移です。左写真の赤矢印は小脳の大きな転移性腫瘍を示しています。腫瘍が大きいので手術による摘出を考慮しても良いのですが、一般に乳がんは放射線治療に対する反応性が良いため、まずは定位放射線治療を行う方針としました。小脳以外にも数ヶ所の多発脳転移があったため、エクステンドシステムを用いてすべての病変に35Gy/10回で分割照射を行いました。右写真は1年後のMRIですが、腫瘍は顕著に縮小した状態で維持されています。

70代男性の肺がんからの小脳転移です(左写真赤矢印)。ガンマナイフによる5分割照射(35Gy/5回)で治療を行いました。右は1年後のMRI検査結果ですが、腫瘍はほぼ消失しています。

40歳台の女性に生じた乳癌からのかなり大きな脳転移です(左写真赤矢印)。ガンマナイフによる10分割照射を行いました。右写真は3か月後のMRI検査結果ですが、腫瘍はほぼ消失しています。ただし、皆がこのように著効するわけではありません。個人差が大きいと言えます。正直言って、これほどまで劇的に腫瘍が縮小するとは私どもは予想していませんでした。

30歳台の女性に生じた乳癌からの比較大きな小脳転移です(左写真赤矢印)。ガンマナイフによる10分割照射を行いました。右写真は6か月後のMRI検査結果ですが、腫瘍はほぼ消失しています。

50代男性の肺がんからの脳転移です(左写真赤矢印)。左写真の緑の矢印は腫瘍周囲の脳がむくんでいること(脳浮腫といいます)を示しています。ガンマナイフによる5分割照射(35Gy/5回)で治療を行いました。右写真は半年後のMRI検査結果ですが、腫瘍はとても縮小しており、脳浮腫も消退しています。

70代男性の肺がんからの小脳転移です(左写真赤矢印)。ガンマナイフによる5分割照射(35Gy/5回)で治療を行いました。右写真は4ヶ月後のMRI検査結果ですが、腫瘍はとても縮小しています。

多発性の転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療に関して

従来、4個を超える多発性転移性脳腫瘍に対しては脳全体に放射線を照射する、いわゆる全脳照射が行われることが通常でした。しかしながら全脳照射はその後に高次脳機能障害を来す恐れがあります。一方で、いったい何個までの脳転移であれば全脳照射を行わず、ピンポイント照射であるガンマナイフで治療が可能なのか、明らかではありませんでした。

そこで、日本全国23のガンマナイフ保有施設が力を合わせて多発性転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療という前向き多施設共同研究を行いました。その臨床研究の概要は以下の通りです。

2009年3月から2012年2月に23施設で以下の基準を満たす1194例を解析しました。

1)新規に脳転移と診断された例
2)転移個数は10個以下
3)最大病変の最大径は30mm未満かつ腫瘍体積10cc未満
4)全ての腫瘍体積の合計が15cc以下
5)癌性髄膜炎所見がみられないこと

解析対象となったのは、男性723例、女性471例で、年齢は30-91(中央値66)歳。

原発臓器は肺912例、乳房123例、消化管85例、腎36 例、その他38例でした。転移個数によりA群(1個:455例)、B群(2-4個:531例)、C群(5-10個:208例)の3群に分類して解析しました。ガンマナイフ治療後の生存期間は、A群はB群(13.9 vs 10.9ヶ月, p=0.001)及びC群(13.9 vs 10.8ヶ月, p=0.017)に比して有意に長かったのですが、B・C群間には差はみられませんでした(10.84 vs 10.84ヶ月, p=0.78)。髄液播種発生率がB・C群間に有意差(p=0.03)が認められましたが、その他の項目に関しては両群間に差はなく、神経機能低下やガンマナイフ関連合併症の頻度にも差は認められませんでした。 本研究は、5-10個脳転移症例に対する初期治療としてのガンマナイフ単独治療は、2-4個に対するそれに対して決して劣るものでないということ、すなわち、上記の基準を満たす場合には一回に10個までの多発性脳転移であれば、ガンマナイフ単独で治療することは妥当であるということを証明したものです。

本研究の最終結果はLancet Oncology(ランセット オンコロジー)というとても権威のある医学雑誌に掲載されました(Lancet Oncol 15:387-395, 2014)。このことはすなわち、本研究の質が高く、その臨床的意義が非常に大きいことが認められたということを意味しています。
言うまでもなく当科は本研究に参加し、3番目の著者として論文に掲載されています。

Yamamoto M, Serizawa T, Shuto T, Akabane A, Higuchi Y, Kawagishi J, Yamanaka K, Sato Y, Jokura H, Yomo S, Nagano O, Kenai H, Moriki A, Suzuki S, Kida Y, Iwai Y, Hayashi M, Onishi H, Gondo M, Sato M, Akimitsu T, Kubo K, Kikuchi Y, Shibasaki T, Goto T, Takanashi M, Mori Y, Takakura K, Saeki N, Kunieda E, Aoyama H,

Momoshima S, Tsuchiya K. Stereotactic radiosurgery for patients with multiple brain metastases (JLGK0901):a multi-institutional prospective observational study. Lancet Oncol : 387-395, 2014

転移性脳腫瘍に対するガンマナイフ治療に関して、私どもは以下のような論文を発表しています。

Gamma knife radiosurgery for metastatic brain tumors.in "Brain Cancer Therapy and Surgical Interventions" Nova Science Publishers Inc.2006

Gamma Knife Radiosurgery for Metastatic Tumours in the Brain Stem.Acta Neurochir (Wien) 145:755-760, 2003

Tumor control probability predicts the fate of multiple metastatic brain tumors.Radiosurgery 5:66-76, 2004

Repeated gamma knife radiosurgery for multiple metastatic brain tumours.Acta Neurochir (Wien) 146:989-993, 2004

Ommaya reservoir placement followed by Gamma Knife surgery for large cystic metastatic brain tumors.J Neurosurg (supple) 105:79-81, 2006

Gamma knife radiosurgery for metastatic brain tumors from renal cell cancer.J Neurosurg 105:555-560, 2006

Efficacy of gamma knife surgery for control of peritumoral edema associated with metastatic brain tumors. J Neurol Neurosurg Psychiatry 79:1061-1065、2008

Treatment strategy for metastatic brain tumors from renal cell carcinoma: Selection of gamma knife surgery or craniotomy for control of growth and peritumoral edema.J Neurooncol 98:169-175, 2010.

GammaKnife surgery for metastatic brain tumors from primary breast cancer: treatment indication based on number of tumors and breast cancer phenotype. Clinical article.J Neurosurg 113 Suppl:65-72, 2010.

Gamma Knife surgery for brain metastases from colorectal cance.J Neurosurg 114:782-789, 2011.

Multi-institutional prospective observational study of stereotactic radiosurgery for patients with multiple brain metastases from non-small cell lung cancer (JLGK0901 study-NSCLC) .J Neurosurg 129:86-94, 2018

Semiquantitative analysis using thallium-201 SPECT for differential diagnosis between tumor recurrence and radiation necrosis after gamma knife surgery for malignant brain tumors.Int J Radiat Oncol Biol Phys 85:47-52,2013

Gamma Knife Surgery for Metastatic Brain Tumors from Gynecologic Cancer.World Neurosurg 89:455-463, 2016

Gamma Knife Radiosurgery for Metastatic Brain Tumors from Malignant Melanomas: A Japanese Multi-Institutional Cooperative and Retrospective Cohort Study (JLGK1501).Stereotact Funct Neurosurg : 1-10, 2018

Gamma knife radiosurgery for metastatic brain tumors from cancer of unknown primary..World Neurosurg (in press)

転移性脳腫瘍に対するrepeated gamma knife radiosurgeryの有用性.定位的放射線治療 8:125-131、2004

多発性転移性脳腫瘍における「ガンマナイフブースト」による生命予後の改善.定位的放射線治療 9:71-76、2005

腎癌脳転移に対するガンマナイフの治療成績, 定位的放射線治療 11:13-18, 2007

腎癌脳転移に対する治療戦略-ガンマナイフによる脳浮腫制御能を考慮に入れた手術適応についての考察-.脳腫瘍の外科 296-300, 2007

乳癌脳転移に対するガンマナイフ治療.定位的放射線治療1595-103, 2011

比較的大きな転移性脳腫瘍に対する寡分割照射の治療適応と限界の検討。定位的放射線治療 18:153-159, 2014

婦人科癌(卵巣癌/子宮体癌/子宮頸癌)脳転移に対するガンマナイフ治療。定位的放射線治療 19:155-163, 2015

比較的大きな転移性脳腫瘍に対するガンマナイフを用いた5分割照射の治療成績。定位的放射線治療 20:93-101, 2016

<5-4>下垂体腺腫

下垂体腺腫に対する治療目的は以下の2点です。

1.過剰ホルモンの分泌を抑える、このためには高線量を要します。
2.腫瘍の発育を抑えること、これはホルモンを下げる線量より低い量でも効果が得られます。

下垂体腺腫の近くには視神経があります。視神経は放射線感受性が高く、損傷を受けやすいといえます。したがって、視神経からあまり離れていない下垂体腺腫や、視神経を押し上げているような大きな腺腫は、視神経を守るために線量を低くせざるを得ません。この低い量では腫瘍の発育は抑えられるかもしれませんが、ホルモンは抑えられません。腫瘍が小さく視神経から離れている場合にホルモンの制御が期待できます。腫瘍が視神経と接していたり、上方に押し上げているような場合には、原則としてまず手術をお勧めしています。
ホルモンを分泌する腫瘍においてガンマナイフ後に内分泌学的治癒がえられる場合、通常は2年以内です。ただしそのためには少なくとも辺縁線量として25Gy以上で照射されていることが望ましいとされています。ホルモンを分泌しない腫瘍であれば、それよりも低線量でも腫瘍制御は得られるようで、必要最低線量については15Gy程度と考えられています。
ガンマナイフ後の合併症:視神経障害としては部分的な視野欠損から完全な視力喪失まで様々です。腫瘍と視神経との距離は5mm以上であることが望ましいのですが、1-2mmでも治療は可能です。ガンマナイフ後の下垂体機能低下の頻度は評価が難しいのですが、0-36%と比較的少ないのではないかと考えられています。ガンマナイフ後の放射線誘発性腫瘍の頻度については文献的考察によれば現在のところ20万人に0-3人程度と考えられています。一般には照射体積が小さいことから、放射線誘発性腫瘍の発生リスクは通常の分割照射よりも少ないと考えられています。下垂体腺腫に対する直達手術:手術単独で長期的な腫瘍制御が得られる確率は50-80%と報告されています。ホルモン分泌腫瘍の場合、手術によるホルモン正常化はクッシング病で56-91%、成長ホルモン産生腫瘍で42-84%、プロラクチン産生腫瘍で28-87%と報告されています。手術リスクは、死亡1%、視力喪失や眼球運動障害や鼻中隔穿孔等の重篤なもの3.4%、髄液漏が約4%、下垂体機能低下症が20%程度です。

ホルモン分泌性下垂体腺腫に対する薬物治療:プロラクチン産生腫瘍の場合、薬物治療により70-90%でプロラクチン値の正常化が期待でき、80-90%で腫瘍縮小も得られます。成長ホルモン産生腫瘍の場合、ソマトスタチンアナログと呼ばれる製剤により55-70%で正常化が得られ、30-40%の患者さんでは腫瘍体積が2-5割縮小すると報告されています。プロラクチン産生腫瘍で薬剤抵抗性の例や副作用により長期的内服が困難な例はガンマナイフの良い適応と考えられます。
クッシング病や成長ホルモン産生腫瘍においては薬物治療は主としてガンマナイフ後の治療効果が現れるまでの待機期間に用いることが多いと考えられます。なお、可能であればこれらの薬物はガンマナイフ治療の際には治癒率を上げるために中止することが望ましいとされています。

下垂体腺腫に対する分割照射(従来からある放射線治療法):分割照射による腫瘍制御率は73-95%と報告されています。ただしホルモンの正常化率はもっと低く、10-83%とばらつきがあります。分割照射の合併症としては、1‐3%の遅発性視神経障害、50-100% の遅発性下垂体機能低下症があり、このため分割は20-25回にする必要があります。長期的にみると放射線誘発性腫瘍(髄膜腫や膠芽腫)が照射10年後に2.7%に、血管障害が4-5%で生じるとされており、現時点ではこれらのリスクはガンマナイフ治療の方が少ないと考えられます。放射線生物学的にもガンマナイフは分割照射よりも細胞に与える影響が大きいとされています。分割照射とガンマナイフを含んだ定位照射を組織学的に比較した検討からも定位照射のほうが効果的であることが示唆されています。治療効果発現も定位照射のほうが早く、基本的には下垂体腺腫に対してはガンマナイフの方が望ましいと考えられます。腫瘍が大きな場合には分割照射が勧められます。

以上、本稿(下垂体腺腫)に関しては以下の論文を参考にしています。

Sheehan JP et al. Stereotactic radiosurgery for pituitary adenomas: an intermediate review of its safety, efficacy, and role in the neurosurgical treatment armamentarium. J Neurosurg 102:678-691, 2005

成長ホルモンを分泌する細胞が腫瘍になると、巨人症あるいは先端巨大症とよばれる状態になります。この成長ホルモン産生下垂体腺腫に対するガンマナイフの治療成績がバージニア大学から論文として発表されています。以下にその要旨を記します。

ガンマナイフ治療を行い一年半以上のフォローアップが可能であった95名の治療成績を解析しています。平均年齢は43歳で男性55名、女性40名、フォローアップ期間は平均で5年でした。腫瘍に対する辺縁線量は平均22Gyでした。おおまかに言えば、2年かけて50%で成長ホルモン値の正常化が得られました。ただ、ホルモンの正常化には比較的強く放射線を照射する必要があるため、副作用として、あらたな脳下垂体の機能低下が1/3で認められました。特に甲状腺刺激ホルモンの分泌能が低下しやすい傾向にありました。これらの機能低下はガンマナイフ治療後平均19ヶ月で確認されています。

またホルモン値を下げる薬物療法を受けている場合、その機序は不明ですがこれらの薬物によって放射線治療の効果が落ちることが知られています。したがって、これらの薬物治療中の患者さんがガンマナイフ治療を受ける場合、ガンマナイフ治療前少なくとも2ヶ月と、治療後6週間は薬物治療を一時中止することを勧めています。

なお、上記の内容は以下の論文を参考にしています.

Jagannathan Jら:Gamma knife radiosurgery for acromegaly: outcomes after failed transsphenoidal surgery.Neurosurgery 62: 1262-1270, 2008


  • 中頭蓋窩を後ろから見た図です。
    下垂体腫瘍は黄色矢印に位置します。
    横にも下方にも伸展することがあります。

下垂体腫瘍はガンマナイフ治療後、陥凹してきています。(矢印)

下垂体腫瘍はガンマナイフ治療後、陥凹してきています。(矢印)

手術後の再発下垂体腺腫です(左写真黄色矢印)。ガンマナイフ治療を行い5年後のMRI検査(右写真)では、 腫瘍は明らかに縮小しています。

40歳台の男性の下垂体腺腫です(左写真赤矢印)。下垂体が側方へ変位しています(緑矢印)。ガンマナイフ治療を行いました。治療から1年3か月後のMRI(右写真)では腫瘍の明らかな腫瘍を認め、緑矢印で示した下垂体の一部がよく見えるようになり、白矢印で示した視神経の圧迫が解除されていることがわかります。

65歳女性の下垂体腺腫です。術後の残存腫瘍(左写真の赤矢印です)に対してガンマナイフ治療を依頼されました。 右写真は10年後のMRI検査結果ですが、腫瘍は著明に縮小し、ほとんどわからなくなっています。副作用も見られず、 非常に良好な治療効果が明らかです。

53歳男性の下垂体腺腫です(左写真赤矢印)。手術摘出後に再発したためガンマナイフ治療を行いました。7年後のMRI検査では、腫瘍は著明に縮小しています(右写真)。

下垂体腺腫に対するガンマナイフ治療後に、合併症として下垂体機能低下を来たすことがあります.この合併症に関する最近の論文を以下に紹介します。

1994 -2006年の間にババージニア大学で下垂体腺腫に対してガンマナイフ治療を受けた262人の患者さんの治療結果の検討です。

結果:ホルモン産生腫瘍の患者さん199人のうち、内分泌学的寛解は144人で得られました。全体の腫瘍制御率は89%でした。

80人の患者さんで、少なくとも1種類のホルモン分泌機能低下が生じていました。下垂体ホルモン分泌能低下は、ガンマナイフ治療後5年で31.5%にみられました。​低下したホルモンとしては、甲状腺刺激ホルモンが 61%、ゴナドトロピンが34%、副腎皮質刺激ホルモンが27%、成長ホルモンが15%でみられました(重複あり)。3%の患者さんで全てのホルモンが低下する汎下垂体機能低下を来たしました.下垂体機能低下を来たしやすい因子としては、腫瘍の鞍上部進展と治療の際の高い放射線量が挙げられました.一方で腫瘍の体積やガンマナイフ治療前の手術の有無、ガンマナイフ治療前の放射線治療の有無、ガンマナイフ治療時の年齢等は関係していませんでした.これらのことから、著者らは、下垂体腺腫に対するガンマナイフ治療は安全かつ有効な治療法であり、治療後に下垂体機能低下を合併症として来たしやすい因子としては、腫瘍の鞍上部進展と治療の際の高い放射線量であると結論しています。

上記の内容は、以下の論文をまとめたものです。

Xuら:Hypopituitarism After Stereotactic Radiosurgery for Pituitary Adenomas. Neurosurgery 72:630–637, 2013

ホルモンを分泌する機能性下垂体腺腫の場合、手術後の残存腫瘍に対してガンマナイフが必要になった際に、画像検査では腫瘍の同定が非常に困難なことがあります。そのような場合、下垂体が存在する部位全体に照射せざるを得ないことがあります。これを全下垂体照射(Whole-sellar stereotactic radiosurgery)と呼びます。この照射法の成績に関して、バージニア大学から出ている論文の要旨を以下に記します。

1989年から2012年の間にバージニア大学で全下垂体照射が64例の治療成績を報告しています。全例照射前に手術が行われており、術後に画像上腫瘍が同定困難か、硬膜や海綿静脈洞への浸潤が手術の際に確認されていた例が対象となっています。照射体積の平均は3.2ml、辺縁線量の中央値は25Gyでした。

内分泌学的検査のフォローアップ期間中央値は41か月で、成長ホルモン産生腫瘍患者の22例(68.8%)、クッシング病患者の20例(71.4%)、プロラクチン産生腫瘍患者の2例(50%)で内分泌学的な寛解が得られていました。各腫瘍の2,4,6年後の内分泌学的な寛解率はそれぞれ、54%,78%,87%でした。4例(6.3%)で治療後に合併症として何らかの神経症状を生じていました。照射後の下垂体機能低下は27例(43.5%)に認められ、このうち2例(3.2%)では汎下垂体機能低下(すべてのホルモンの分泌能が障害された状態)を来していました。 ガンマナイフ治療時の照射線量が高いほど 寛解率が高いとともに、照射後の下垂体機能低下も生じやすい傾向にありました。

以上のことから、この論文の著書らは、浸潤性あるいは画像上腫瘍の同定が困難なホルモン分泌性下垂体腺腫術後に対する全下垂体照射は選択肢の一つとなり得るものであり、合併症として最も多いのは照射の後の下垂体機能低下であったと報告しています。

以上の内容は以下の論文の内容をまとめたものです。

Lee CC, Chen CJ, Yen CP, Xu Z, Schlesinger D,Fezeu F, Sheehan JP. Whole-sellar stereotactic radiosurgery for functioning pituitary adenomas. Neurosurgery 75:227-237, 2014

<5-5>血管芽腫

小脳血管芽腫単発例の小脳血管芽腫(hemangioblastoma)も遺伝性の多発例(フォンヒッペルリンドウ von Hippel Lindau disease)も治療します。

血管芽腫はしばしばvon Hippel-Lindau病という遺伝性疾患に伴って発生します。小脳血管芽腫はその5-30%がvon Hippel-Lindau病に伴うものであることが知られており、また脊髄血管芽腫の場合は実に80%が本疾患に伴うものと言われています。von Hippel-Lindau病に伴うことが多い病変としては血管芽腫の他に、腎臓病変(80%)、網膜病変(70%)、すい臓病変(55%)、副腎病変(15%)等が知られています。以下にvon Hippel-Lindau病に伴う血管芽腫の特徴について記します。本病の患者さんには小脳に約50%、脳幹部に約20%、脊髄に約50%、大脳半球に約5%の頻度で血管芽腫がみられます。そして単発性が(腫瘍が一つのみである)20%、多発性が80%です。すなわち一人の患者さんに2つ以上の腫瘍が生じることの方が圧倒的に多いのです。そして小脳や大脳半球の腫瘍では約半数で嚢胞(中に液体成分を含んだ袋状の病変)を伴い、脳幹部の病変では約1/4で嚢胞を伴います。腫瘍サイズが大きいほうが嚢胞を伴いやすいという傾向はありますが絶対的なものではありません。血管芽腫をもっている患者さんに何らかの神経症状が出現する場合、その原因は腫瘍自体よりもほとんどの場合、この合併する嚢胞によるものであると言えます。また腫瘍自身の増大傾向よりも嚢胞の増大傾向の方が強いことが多く、血管芽腫について論じる場合にはこの嚢胞の有無や大きさを十分に考慮する必要があります。腫瘍を3-4年間程度経過をみていると腫瘍自身の約40%、合併している嚢胞の約70%が増大してきます。しかしどのような腫瘍が、その後の経過観察の過程で増大してくるかということを予測することは困難です。また数ヶ月の間増大傾向を呈してから、その後の数ヶ月間は停止するということもあります。また、経過中に以前には認められなかった新たな血管芽腫が生じてくることがしばしばあります。

以上の内容に関しては、下記の論文を参考にしています。

Wanebo JEら:The natural history of hemangioblastomas of the central nervous system in patients with von Hippel-Lindau disease. J Neurosurg 98:82-94, 2003

このように血管芽腫の治療においては腫瘍の増大予測が困難であったり、腫瘍自体よりも合併する嚢胞が問題となることが多い等、他の腫瘍にはない難しい問題が多く含まれていますが、近年ではガンマナイフ治療も多く行われており、当科でも積極的に治療に取り組んでいます。

以下に当科で治療を行った血管芽腫の治療成績を記します。

当院にてガンマナイフを行い、その後の画像フォローが可能であった22例67腫瘍を検討しました。画像上の効果は消失、縮小ないしは不変、増大(無効)に分類し、前2者を腫瘍制御例としています。男性12例、女性10例でガンマナイフ施行時は平均51.9歳でした。von Hippel-Lindau病は8例、治療時の腫瘍数は平均2.8病変、辺縁線量は平均14.3Gy、最大線量は平均22.2Gyで照射されていました。平均フォロー期間は55.2ヶ月と比較的長期間にわたって行われており、腫瘍の消失を11.9%、縮小ないしは不変を76.1%、増大を12.0%に認めました。すなわち腫瘍制御率(腫瘍が大きくはならない確率)は88.0%でした。血管芽腫はしばしば嚢胞とよばれる水分を含んだ袋状の部分を伴いますが、ガンマナイフ時に嚢胞を伴わない腫瘍の制御率は93%、嚢胞を伴う腫瘍の制御率は63.6%と明らかな差がみられました。また当初充実性(嚢胞を伴わない腫瘍)であってもガンマナイフ後に嚢胞形成を来たした例が4例みられ、うち2例では照射部位は制御されているにもかかわらず手術摘出が必要となりました。また、ガンマナイフ後の手術例の組織所見ではMRI上造影されるものの線維化が顕著で活動的な腫瘍細胞は減少しており、ガンマナイフの有効性が示唆されました。 以上から、充実性小脳血管芽腫に対するガンマナイフの腫瘍制御効果は良好ですが、嚢胞を伴った腫瘍の場合には長期的にみると成績は良いとは言えず、可能な限り手術摘出をお勧めするべきと考えています。

57歳男性の小脳血管芽腫(赤矢印)です。他の病院で開頭手術が行われ、残存腫瘍に対するガンマナイフ目的に当科を紹介受診しました。左はガンマナイフ治療時、右は3年後のMRI検査結果ですが、腫瘍の縮小が明らかです。

小脳血管芽腫に対するガンマナイフ治療に関して、私どもは以下のような論文を発表しています。

Gamma knife radiosurgery for intracranial haemangioblastomas. Acta Neurochir (Wien) 149:1007-1013, 2007

多発性小脳血管芽腫に対するガンマナイフ治療後長期フォローの1例-頭蓋内血管芽腫に対するガンマナイフ治療の効果と適応について- 脳腫瘍の外科 287-293, 2007

後頭蓋窩血管芽腫に対するガンマナイフ治療 定位放射線治療 2:53-62, 1998

後頭蓋窩血管芽腫に対するガンマナイフの治療成績およびその適応に関する考察 定位放射線治療 11:35-42, 2007

  • 多発例のフォン-ヒッペル-リンドウ病は遺伝子の異常で、第3染色体短腕25-26領域に位置します(赤)。

治療時のMRI画像を立体表示したものです。後頭蓋窩に散在する多数の血管芽腫を治療しました。手術で全部とることは困難です。

<5-6>胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍(germ cell tumor)放射線感受性の高い腫瘍です。比較的低い線量で照射しても効果が得られます。
他にも播種(はしゅ)していることがあり、化学療法を中心に治療を行いますが、全脳照射を加える場合もあります。
Germinoma(ジャーミノーマ)と呼ばれる腫瘍は本質的には悪性腫瘍ですが、化学療法や放射線治療によって治癒が期待し得る腫瘍です。ガンマナイフは最初から用いるべき治療方法とは言えませんが、初発時の補助的手段や再発時の治療方法として有効と考えられます。

神経膠腫(glioma ;grade II,III)も治療します。腫瘍の発育のcontrolもある程度可能かと考えておりますが、まだ満足できる結果とはいえません。脳原発の悪性腫瘍である多形性神経膠芽腫(glioblastoma multiforme)はガンマナイフ治療のみでは、腫瘍の性質上限界があります。ガンマナイフは全体の治療の一部にすぎません。

比較的良性と考えられるgrade1,2の腫瘍に対してはガンマナイフの有効性が知られています。特に小児に好発するgrade1の腫瘍では、ガンマナイフ治療により治癒が期待し得ます。一方、悪性であるgrade 3,4の腫瘍に対しては、初期治療としてのガンマナイフの有効性はいまだ明らかではありませんが、再発した際の補助的治療としては有効なことが近年多く報告されています。

<5-7>膠芽腫(グリオブラストーマ)に対するガンマナイフ治療

膠芽腫(グリオブラストーマ)は高い浸潤能・増殖能を有し化学療法・放射線治療に抵抗性で、治療に極めて難渋する悪性腫瘍です。
膠芽腫治療におけるガンマナイフの有効性についての大規模な研究としてはSouhamiらによる報告があります。
これはガンマナイフ後に通常の放射線治療と抗がん剤治療を行う群と初期治療としてはガンマナイフを行わず、通常の放射線治療と抗がん剤治療のみを行う群を比較する臨床試験です。その結果、生存期間に関して両群間に有意差はみられませんでした。すなわち、膠芽腫に対する初期治療としてのガンマナイフの生存期間延長効果は否定されました。しかしその後、再発腫瘍に対するガンマナイフの有効性を示唆する報告が多くみられます。 Hsiehらは1998-2003年に手術および通常の放射線治療を行った連続51例を報告しています。ガンマナイフは術後の補助療法として、あるいは再発時の治療に適用しています。全体の生存期間中央値は診断後14.3ヶ月で、再発時照射群において有意ではありませんが生存期間が長い傾向にあったと報告しています。
Kongらは2000-2006年にガンマナイフが術後の補助療法、あるいは再発時の治療として施行された連続65例の膠芽腫の治療成績をガンマナイフ導入前の治療群264例と比較し報告しています。経過中にガンマナイフを行った65例の診断後生存期間中央値は23ヶ月、ガンマナイフ導入前群のそれは12ヶ月であり、ガンマナイフ導入後は有意に生存期間延長効果が得られていると報告しています。他にも多くの論文があり、標準治療後の再発あるいは増悪病変に対するガンマナイフ治療は有効であると思われます。
膠芽腫に対するガンマナイフ治療に関しては、以下の論文を参考にしています。

Souhami L, Seiferheld W, Brachman D, et al: Randomized comparison of stereotactic radiosurgery followed by conventional radiotherapy with carmustine to conventional radiotherapy with carmustine for patients with glioblastoma multiforme: Report of Radiation Therapy Oncology Group 93–05 protocol. Int J Radiat Oncol Biol Phys 60:853–860, 2004

Hsieh PC, Chandler JP, Bhangoo S, et al: Adjuvant gamma knife stereotactic radiosurgery at the time of tumor progression potentially improves survival for patients with glioblastoma multiforme. Neurosurgery 57:684-692, 2005

Kong DS, Lee JI, Park K, et al: Efficacy of Stereotactic Radiosurgery as a salvage treatment for recurrent
malignant gliomas.Cancer 112:2046-2051, 2008

膠芽腫に対するガンマナイフ治療に関して、私どもは以下のような論文を発表しています。
膠芽腫に対するガンマナイフ治療の役割 癌と化学療法 37:1024-1026, 2010.

<5-8>脳動脈奇形

脳動静脈奇形(AVM)もガンマナイフが非常に有効な疾患の一つです。
半数以上が出血で発症し、次いで痙攣発作が1/4といわれています。年間出血率は2-3%、初回出血での死亡率は約1割で、重篤な障害を残す確率も1割程度と考えられています。また、動脈瘤の合併が約1割に認められます。
女性に本症が見つかった場合には、妊娠前に治療を行うべきとされています。帝王切開が経膣分娩よりも出血のリスクを減じるという明確な根拠やデータはありません。また、妊婦に本症が見つかった場合、基本的には妊娠中にあえて治療を行わなければならないという根拠もありません。

なお、小児例で全摘出後の再発が報告されており、このことは脳動静脈奇形が必ずしも先天性とは限らない可能性を示唆しています。小児では当然生涯出血率は高くなり、小児例における出血による死亡率は25%にも及ぶとの報告があります。これらのことから小児例においては成人例におけるよりもより積極的に治療を行うことが推奨されています。
ガンマナイフの良い適応は血管奇形の体積が10cc以下ないしは径3cm以下で、脳動静脈奇形における治療の最終目標は血管奇形部(ナイダスと呼ばれます)の完全閉塞です。

治療後2~3年で 約70%が完全に閉塞します。部分閉塞は20~25%です。3年から4年目、あるいはそれ以上経過してから閉塞した例もあります。完全閉塞にいたらず残存部があれば出血の危険性が残ります。したがって、完全閉塞するまでは出血の危険性が年2~3%あることになります。治療3~4年後にはっきりした残存があれば、再度ガンマナイフもあり得ます。治療後の脳動静脈奇形周辺の脳浮腫出現率はやや高く、痙攣が増えることもあります。一般にガンマナイフ後の症候性脳浮腫は約1割に生じますが、これらのうち半数は3年以内に消失します。放射線壊死は約2%です。出血の可能性も考慮に入れれば、ガンマナイフ治療後から完全閉塞まで3年かかるとして、副作用や出血が生じる可能性は15%くらいになると言えます。

なお、頭部打撲をきっかけとして偶然に発見されたような脳動静脈奇形(無症候性脳動静脈奇形)に対しても出血予防の観点から治療の適応はあると考えています。当院での無症候性脳動静脈奇形に対する治療成績は以下のとおりです。
当院でガンマナイフを行った脳動静脈奇形538例のうち2年以上のフォローが可能であった無症候性脳動静脈奇形55例を検討しました。男性34例、女性21例で平均年齢は42.7歳、フォロー期間は24ヶ月から140.8ヶ月(中央値:48ヶ月)でした。結果は血管撮影上の閉塞22例、MRI上の閉塞16例、部分閉塞14例、不変4例でした。経過中周辺脳浮腫は47.9%に生じ1/4が何らかの症状を伴い、この浮腫消失までは平均19.5ヶ月を要していました。痙攣2例、頭痛、半盲、運動麻痺が各1例に生じましたがいずれも一過性でした。ガンマナイフ後の出血は2%に生じましたが嚢胞形成等の長期合併症はみられませんでした。以上から、無症候性脳動静脈奇形のガンマナイフによる閉塞率は従来の成績と同様で、適切な症例を選べば完全閉塞が得られる確率は高く有効な手段と考えます。一方、経過中に一過性の脳浮腫をみる確率は高く、かつその消退には長期間を要することから、無症候例においても手術が可能な部位に動静脈奇形が存在する例には直達手術での摘出が第一選択と考えています。

また、当科にてガンマナイフ治療を行った小児(15歳以下)の脳動静脈奇形の治療成績は以下のとおりです。
当院でガンマナイフを行った脳動静脈奇形538例のうち2年以上のフォローが可能であった15歳以下の小児脳動静脈奇形37例を解析しました。内訳は男児14例、女児23例で治療時の平均年齢は12.1歳、フォロー期間は2年から8.6年(平均:46.7ヶ月)です。このうち2例においてガンマナイフを2回行いました。治療時の病変部の平均体積は4.2cc、平均辺縁線量は19.9Gyであり、脳血管撮影上の完全閉塞21例、MRI上の消失3例、部分閉塞12例、不変1例でした。体積別の閉塞率は5cc未満83.3%、5-10ccが37.5%、10cc以上が25%でした。経過中照射部位周辺の脳浮腫は36.1%に生じ1/3が何らかの症状を伴い、この脳浮腫消失までは平均9.5ヶ月を要していました。痙攣1例、運動麻痺が各3例に生じ、麻痺が1例で永続的に後遺しました。ガンマナイフ後の出血は5.6%に生じましたが嚢胞形成等の長期合併症はみられませんでした。
以上より、小児脳動静脈奇形のガンマナイフによる閉塞率は病変部の体積が5cc以下の症例において特に良好でした。一方、経過中に脳浮腫出現をみる確率は高く、かつその消退には長期間を要することが多々あります。従って小児例においても直達手術が可能であればそれが望ましいと思われますが、深部の病変に対しては極めて有効な治療手段であると考えられます。

なお、脳動静脈奇形に対するガンマナイフ後に、血管撮影上ナイダスと呼ばれる異常血管の塊は造影されないにも関わらず、導出静脈と呼ばれる静脈だけが早期に描出されてくることがあります(subtotal obliteration)。これはいまだに異常な動脈と静脈の短絡があることを示唆する所見です。このような場合、更に次のガンマナイフ治療が必要か否かについては議論の余地がありますが、最新の研究結果として、バージニア大学から報告された以下の論文を御紹介します。
ガンマナイフによる治療後に上記のような所見(subtotal obliteration)を呈した159例(全治療例の7.6%)を検討しています。平均年齢は35.2歳で、ガンマナイフを行ったときの病変部の体積は平均で2.5ccでした。このうち23例で完全閉塞を目指して更なるガンマナイフ治療を行っています。しかし結果的にはこの159例のうち、その後に出血を来たした患者さんはいませんでした。2回目の治療を行わないで、しばらくしてからあらためて血管撮影検査を行った90例のうち、24例(26.7%)では所見に変化はみられませんでしたが、66例(73.3%)ではその後に完全閉塞に至っていることが確認されました。一方、2回目のガンマナイフ治療を行った23例のうち19例でその後に血管撮影が行われていますが、15例(78.9%)で完全閉塞が得られ、4例(21.1%)で所見に変化はみられませんでした。

このように、ガンマナイフ後に異常な血管の塊は描出されないにもかかわらず異常静脈だけが写ってくるような状態にまで至った場合、その後に出血を来たす危険性は極めて低いものと思われます。このような状態はある患者さんにおいては完全閉塞に至るまでの途中経過であると考えられますし、場合によってはそれ以上変化しないこともあるようです。

以上のことから、ガンマナイフ後に異常な血管の塊は描出されないにもかかわらず異常静脈だけが写ってくるような状態(subtotal obliteration)の場合には必ずしも再治療が要しないといえるかもしれません。

なお、上記は以下の論文を参考にしています.
Yen CPら:Subtotal obliteration of cerebral arteriovenous malformations after gamma knife surgery.  J Neurosurg 106:361-369, 2007

動静脈奇形に対するガンマナイフ後に生じる嚢胞(のうほう)について

脳動静脈奇形に対するガンマナイフの有効性は上述のとおりですが、本質的には放射線治療であることから、照射に伴う合併症が生じ得ることも事実です。脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後の合併症として嚢胞(のうほう)形成とよばれるものがあります。嚢胞とは液体成分を含んだ部分が袋状に大きくなったもので、周囲の脳を圧迫することにより様々な症状を呈し得ます。

当科は、脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後の長期合併症の一つとして知られている嚢胞形成について、非常に多くの治療経験を有しており、以下にその内容をご紹介します。

当院で1992年2月以降にガンマナイフを行った脳動静脈奇形は2013年8月時点で794例です。このうち当科にて嚢胞形成を把握し得た22例と、他院にてガンマナイフが行われ当科にて嚢胞形成に対する治療を行った3例の計25例についてです。

嚢胞形成が確認された25例の内訳は男性15例、女性10例で年齢は14〜67歳(平均30.4歳)、嚢胞診断に至るまでの期間は1.1年〜16年(平 均7.4年)でした。嚢胞の造影MRI所見としては、嚢胞壁の一部に結節状の増強効果を呈する病変がみられ周囲脳に浮腫を伴わない例が11例に、同様の結節状の病変が周囲脳の浮腫を伴っている例が1例にみられました。 一方、不均一な増強効果を呈し強い脳浮腫を伴ういわゆる進行増大性血腫に合併した嚢胞は10例でした。当科の初期の3例では画像検査として造影 MRIが行われていなかったため、上記の分類には入っていません。このうち、14例において嚢胞に対して開頭術による開放がなされており、いずれも術後の経過は良好でした。造影MRI上結節状の増強効果を呈する病変が認められた12例のうち多くの例で手術の際にMRI上結節状の増強効果を呈する病変が、肉眼的には脳実質に埋没する赤色の比較的柔らかい腫瘤であることを確認し、摘出しています。 開頭術以外の治療も数例で行われていました。自然縮小が1例にみられ結果的に嚢胞に対する治療は不要でしたが、これは比較的稀なことと考えられます。2013年10時点で9例において定期的な経過観察を継続しています。

この、脳動静脈奇形に対するガンマナイフ後に生じる嚢胞形成に関して、当科の見解は以下のとおりです。

当科の治療経験のうち造影MRIが行われている症例においては12例で嚢胞の一部に増強される結節性病変を認めています。この結節性病変は術中所見では脳実質内に埋没するように存在する比較的軟らかい赤色腫瘤で、周囲脳との境界はわかりやすく、その摘出は比較的容易です。病理学的には壁の壊死伴う拡張した血管が多数集まっており、また、脳実質内に蛋白成分が漏出していました。これらの所見は放射線治療後の合併症の一つである放射線壊死の際に一般に認められるものです。照射により血管壁の壊死性変化が惹起され、これによる血管の透過性(物質を通過させる性質)が亢進し、脳実質への血漿蛋白成分漏出や出血を来たし、のう形成に至るのではないかと推察しています。

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後に生じた何らかの症状を呈する嚢胞に対して外科的治療を考慮する場合、比較的負担の少ないOmmaya貯留槽設置と呼ばれる処置のみでよいこともあるのは確かです。しかしながら、上述した嚢胞の発生・増大機序を鑑みれば、開頭術により嚢胞の開放とともに照射後の変化を来たした部位を摘出することが本質的・根治的であると我々は考えています。

当科ではこのように、脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後の嚢胞形成という合併症に関して非常に多くの治療経験を有し、多くの学会発表や論文発表を行っています。本合併症でお困りの方は、外来にいらしていただければ、当科のお勧めする見解をお話させていただきます。

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ後に生じた嚢胞です。術前のMRI(上段)では、嚢胞(上段の青矢印)とともに白い結節性の変化(上段の赤矢印)がみられています。下段は術中の所見です。赤い塊が、MRIで白くうつっていた結節性の病変であり、これは全て摘出する必要があります。これを全摘出し、さらに嚢胞を開放したところが下段の右の写真です。運動神経線維がごく近くを走行していたことから、MEPとよばれる術中モニタリングを併用して、より安全な手術を行いました。

上記と同様の合併症を来たした若い女性の患者さんです。左側の画像は手術前の造影MRI写真で、白くうつる腫瘤性病変とともに、周囲の脳が黒ずんでおり、これは脳浮腫を示します。開頭術により腫瘤性病変を全摘出しました。病変は赤くてやや硬い腫瘤です(中央の写真)。周囲脳との境界は比較的明瞭であり、摘出はさほど困難ではありませんが、比較的稀な手術ですので、慣れていないととまどうかもしれません。病変を慎重に全摘出した後の術中所見が右側の写真です。術後、患者さんは頭痛等の症状が良くなって、合併症なく退院されました。

10代の男性で頭痛をきっかけに発見された小脳の脳動静脈奇形です。上段の左および中央の写真は脳血管撮影検査で赤矢印が脳動静脈奇形です。上段の右写真はMRI検査で緑矢印が脳動静脈奇形です。2回ガンマナイフ治療を行い、初回治療から6年後に完全閉塞が得られました。その後患者さんの都合により診療が中断していましたが、さらに4年後に頭痛を訴え再度受診しました。放射線治療による長期合併症としてののう胞形成や慢性被膜化血腫をきたしており(中段)、開頭摘出術により病変部を摘出しました。
下段は術後のMRI検査ですが、のう胞や慢性被膜化血腫はすべて摘出されています。

上記患者さんの術中所見です。病変部は周囲脳組織とは境界明瞭なやや硬い病変として認められ、全摘出が可能です。下段は摘出した慢性被膜化血腫です。

右側頭部の脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後に上述の変化を来たし手術が必要になった患者さんです。
左写真はガンマナイフ前のMRIで赤矢印で示した部位が脳動静脈奇形です。ガンマナイフ治療後4年で脳動静脈奇形は完全に閉塞しましたが、その3年後から同部に脳浮腫を伴う変化が生じてきました。中央写真はそのときのMRIで、緑矢印は放射線治療によって変化した部位を、青矢印は周囲の脳浮腫を示しています。開頭術により変化した病変を全摘出しました(右写真)。

40歳台の女性です。10年以上前に左視床部の脳動静脈奇形に対してガンマナイフ治療を行い、完全閉塞が得られました.しかしながらその後緩徐に嚢胞性の変化が生じてきて(上段赤矢印)、麻痺が悪化してきました。嚢胞の一部には造影される部分があり(上段中央写真青矢印)、嚢胞を開放するとともにこの青矢印で示した部分を摘出することが本質的な治療であると判断しました。このため、開頭術を行い、脳梁とよばれる部位を経由して右の側脳室内に入り、脈絡裂を経由して第3脳室内に入り、左視床部の病変部に到達しました(Transcallosal transchoroidal approach)。嚢胞内容液は蛋白濃度の高い黄色で、これを吸引除去した後、青矢印で示した赤色の結節性病変を摘出しました。下段の写真は術後のMRIですが、嚢胞は縮小し麻痺も改善しました。

小脳虫部と呼ばれる部位の脳動静脈奇形に対してガンマナイフ治療を行い、完全閉塞後に血管腫様変化を来たした例です(術前MRIでの赤矢印)。病変が深い部位に存在するため、左右後頭葉の間から小脳テントと呼ばれる部位を切開して小脳虫部に到達する方法をとり、全摘出しました。術後のMRIでは病変は全摘出されています。術後軽度のふらつきが残りました。

同様の合併症は脳動静脈奇形の患者さんに限りません。転移性脳腫瘍においても起こりえます。

肺がんからの脳転移です(上段左写真赤矢印)。ガンマナイフ治療を行い腫瘍は消失し、原発の肺がんも治癒しました。ところが11年後のMRIでは腫瘍が消失した部位に一部造影される部分が生じてきました(上段右写真)。経過をみていましたが、その1年後には影はどんどん大きくなり(下段左写真緑矢印)、周囲の脳浮腫を伴い、麻痺の症状が出てきました。このような状態は放射線治療後の長期合併症としての慢性被膜化血腫であり、腫瘍の再発ではありません。自然軽快することもあるのですが、進行性に悪くなってしまうことが多いです。治療してから数年以上、あるいはこの患者さんのように10年以上経過してから生じることもあります。手術摘出により完治が望めます。この患者さんも手術により病変を全摘出し(下段右写真)、麻痺も良くなりました。

なお、当科から脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後の嚢胞形成に関して発表した論文は以下のとおりです。
Surgical treatment for late complications following gamma knife surgery for arteriovenous malformations. Stereotact Func Neurosurg 89:96-102, 2011

Proposed Mechanism for Cyst Formation and Enlargement Following Gamma Knife Surgery for Arteriovenous Malformation. Clinical article. J Neurosurg 117 Suppl:135-143, 2012

Pathological characteristics of cyst formation following gamma knife surgery for arteriovenous malformation.Acta Neurochir (Wien) 157: 293-298, 2015

Authors' reply to "Pathogenesis of radiosurgery-induced cyst formation in patients with arteriovenous malformation".Acta Neurochir (Wien) 157:779-780, 2015

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後の嚢胞形成.脳卒中の外科 38:228-234, 2010

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後の血管腫様病変に対する手術について.定位的放射線治療 14:86-96, 2010

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後に生じる血管腫様病変の画像および病理所見について.CI研究 32:209-214, 2010

脳動静脈奇形ガンマナイフ治療後の長期合併症に対する手術適応.定位的放射線治療 15:71-76, 2011

脳動静脈奇形のガンマナイフ後に生じた血管腫様病変の3手術例.脳卒中の外科 39:347-352, 2011

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ後に生じる嚢胞の増大機序について.定位的放射線治療 16:5-10, 2012

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後に生じる嚢胞の増大機序について:第2報.定位的放射線治療 17:45-49, 2013

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後に生じた嚢胞形成に対する手術方針 -再発、再治療を要した1例から-脳卒中の外科(印刷中)

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脳動静脈奇形は異常血管の集まりで、黄色矢印のように見えます。異常血管網のみに照射します。

かなり大きな脳動静脈奇形の異常血管網でも治療2年後完全に消失しています。

かなり大きな脳動静脈奇形の異常血管網でも治療2年後完全に消失しています。

ガンマナイフ治療22ヵ月後に、脳動静脈奇形の異常血管網が完全に消失しています。

ガンマナイフ治療22ヵ月後に、脳動静脈奇形の異常血管網が完全に消失しています。

20代女性の脳動静脈奇形です。左はガンマナイフ治療前の脳血管撮影検査の結果で、赤矢印で示すように動静脈奇形がみられます。右はガンマナイフ治療3年後の脳血管撮影検査で、赤矢印で示した病変は写らなくなっています。すなわち、完全閉塞が得られたと考えられます。

20代男性の小脳動静脈奇形です(左写真赤矢印で示す黒い塊です)。ガンマナイフ治療を行い、3年後には完全閉塞が 得られました(右写真)。

20代男性の小脳動静脈奇形です(左写真赤矢印で示す黒い塊です)。ガンマナイフ治療を行い、3年後には完全閉塞が 得られました(右写真)。

痙攣で発症した頭頂部の比較的大きな脳動静脈奇形(左写真の赤矢印)です。病変が大きいため、1回での治療は困難と判断し、半年の間隔をあけて2回に分けて照射しました(体積での分割)。副作用としての脳浮腫が一過性に出現しましたが回復し、ガンマナイフ治療から3年後の脳血管撮影検査(右写真)では、脳動静脈奇形の完全閉塞が確認されました。このような大きな脳動静脈奇形に対して数回にわけてガンマナイフを行う方法は、すでに論文でも発表はされていますが標準的とは言えませんので、十分な検討を重ねた上で適応を判断する必要があります。

小脳の動静脈奇形(左側の写真の赤矢印)です。ガンマナイフ治療を行い、最終的には完全閉塞が得られました。5年後の検査結果である右側の写真で動静脈奇形は写らなくなっています。

30代女性で側頭葉に脳動静脈奇形があります(左写真の赤矢印)。この患者さんでは静脈瘤を伴っています(左写真の緑矢印)。ガンマナイフ治療を行い、一時副作用である周辺脳組織の浮腫が生じまたが(中央写真の白矢印)、その後浮腫は消退し、脳動静脈奇形も完全に閉塞して写らなくなっています。静脈瘤もなくなりました。

20代女性の脳動静脈奇形です。脳血管撮影検査により血管のかたまり(ナイダスと呼ばれます)が示されています(左写真の赤矢印)。ガンマナイフ治療を行い、5年後の検査ではナイダスは描出されなくなっており、完全閉塞が得られていることがわかります。

出血発症した脳動静脈奇形の患者さんです。上段左写真は治療前の脳血管撮影検査です。赤矢印で示すように大きな脳動静脈奇形がみられます。上段右写真では、脳動静脈奇形から流出する静脈がりゅうりゅうと写っています。サイズが大きいため2つの部分に分けて3ヶ月間隔で2回に分けてガンマナイフ治療を行いました。下段は3年後の脳血管撮影検査ですが、脳動静脈奇形は完全に閉塞し、写らなくなっています。

50代女性の脳動静脈奇形です(左写真赤矢印)。左写真の緑の矢印は合併する静脈瘤を示しています。一回のガンマナイフでは完全閉塞が得られなかったために、5年後に2回目のガンマナイフ治療を行い、その8年後に完全閉塞が確認されました(右写真)。完全閉塞に至るまで数回の出血を生じましたが、最終的にはなんとか完全閉塞を得ることができました。

60代男性にみられた脳動静脈奇形です(左写真矢印)。ガンマナイフ治療を行い、辺縁線量20Gyという線量で照射しました。4年後、完全閉塞が得られました(右写真)。

当科では小児例であっても、全身麻酔下にガンマナイフ治療を行うことが可能です。

脳室内出血で発症した女児の脳動静脈奇形です。左写真の赤矢印は脳動静脈奇形の本体(ナイダスと呼ばれます)を示しています。緑矢印は、動静脈奇形を通過してきた血液が流出する静脈を示しています。ガンマナイフ治療を行い、5年後に完全閉塞が得られました(右写真)。

当科でガンマナイフ治療を行った18歳未満の小児脳動静脈奇形の治療成績は以下のとおりです。
1992年6月から2014年12月までに当科にてガンマナイフ治療を施行した18歳未満の脳動静脈奇形109例(男性49例、女性60例)を検討しました。治療時の平均年齢は12.6歳(4-17歳)、出血発症77例、痙攣発症10例、その他が18例でした.ガンマナイフ前の直達手術および塞栓術はそれぞれ12例、21例において施行されていました。ガンマナイフ治療時における動静脈奇形の体積は平均4.2cc(0.1-26.7cc)、辺縁線量は平均19.5Gy(12-25Gy)、最大線量は平均37.4Gy(18-50Gy)で照射されていました。107例中8例が2回、2例が3回のガンマナイフ治療を受けていました。

平均総経過観察期間は64ヶ月、最終的に82例において完全閉塞が得られていました。ガンマナイフ後の累積完全閉塞率は3年44.3%、5年68,1%、8年で80.1%でした。ガンマナイフ後の脳浮腫は32例(29%)において確認され、平均10.2ヶ月持続していました。ガンマナイフ後の出血は7例において確認され、うち1例は死亡されていました。人年法という解析法によるガンマナイフ後の出血率は年間1.5%と計算されました。8例に嚢胞形成あるいは慢性被膜化血腫の形成を認め、このうち3例で直達手術が必要になりました。多変量解析の結果、完全閉塞に関連する因子としてはナイダスの体積のみが統計学的に有意な条件でした(p=0.048)。放射線誘発性腫瘍を生じたと思われる例はありませんでした。

以上より、ガンマナイフにより小児脳動静脈奇形は高率に完全閉塞が期待し得ると考えられます。一方で完全閉塞後にも嚢胞形成や慢性被膜化血腫等が生じることは稀とは言えず、長期的に経過をみていくことが大切です。

MRIで追跡してゆきます。脳動静脈奇形の異常血管網である黒い部分(flow void)(矢印)が徐々に減少、消失していきます。

比較的大きな(体積で10cc以上)な脳動静脈奇形の場合、1回のガンマナイフ照射で治療することは困難となります。このような場合、当科では血管奇形部をサイズによって2-3の部分に分けて、3か月の間隔をあけて各々を十分な線量で照射するという戦略でのぞんでいます。この方法では治療の完遂に3-6か月を要するという点が欠点ではありますが、比較的大きな脳動静脈奇形を無理して一回で治療するよりも、十分な線量で照射でき、かつ放射線障害の副作用リスクを減らすことができるということから、良い治療法であると考え積極的に行っており、その治療成績を以下に記します。

2015年までに当科で段階的照射を行った脳動静脈奇形13例(男性9例、女性4例、平均年齢38.9歳)をretrospectiveに検討しました。 基本的な治療戦略として各コンポーネントを辺縁線量18Gyで照射し、かつ18Gy照射体積がおおむね10ccを越えないようにしています。各照射には3-6ヶ月の間隔をおき、原則として栄養動脈が多く入ってくる部分を最初に照射し、流出静脈を含むコンポーネントを最後に照射しました。
発症様式は出血5例、痙攣5例、その他3例で、術前塞栓術は7例で行われていました。2段階照射が9例、3段階照射が4例で、初回照射の平均体積は8.7cc、2回目が7.7cc、3回目が9.3ccでした。最終照射後の平均フォロー期間は35.7ヶ月、完全閉塞が5例、出血が2例、放射線障害による手術が1例、完全閉塞前の経過観察中が5例という結果でした。累積閉塞率は3年 40%、5年 53%、累積出血率は1年 7.7%、3年 7.7%、5年 30.8%と計算されました。
以上より、ガンマナイフによる段階的照射は10ccを超える比較的大きな脳動静脈奇形に対する治療戦略の1つとなり得ると考えています。一方で、出血や放射線障害により直達手術を要するリスクもあると言わざるを得ません。

40代女性の比較的大きな脳動静脈奇形(左写真赤矢印)です。サイズが大きく一回では治療が困難であったため、上述の2回に分けた治療を行いました。間隔は3ヶ月で各回の辺縁線量は18Gyで照射しました。右は約4年後の脳血管撮影検査の結果ですが、脳動静脈奇形は写らなくなっており、良好な結果が得られました。

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療に関して、私どもは以下のような論文を発表しています。

Pathological characteristics of cyst formation following gamma knife surgery for arteriovenous malformation.Acta Neurochir (Wien) 157: 293-298, 2015

Authors' reply to "Pathogenesis of radiosurgery-induced cyst formation in patients with arteriovenous malformation".Acta Neurochir (Wien) 157:779-780, 2015

Proposed Mechanism for Cyst Formation and Enlargement Following Gamma Knife Surgery for Arteriovenous Malformation. Clinical article.J Neurosurg 117 Suppl:135-143, 2012

Surgical treatment for late complications following gamma knife surgery for arteriovenous malformations. Stereotact Func Neurosurg 89:96-102, 2011

Long-term outcomes of gamma knife surgery for posterior fossa arteriovenous malformations.Neurol Med Chir (Tokyo) 54:799-805, 2014

脳動脈奇形に対するガンマナイフ治療の適応と限界.定位的放射線治療 6:25-31、2002

無症候性脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療.脳卒中の外科 34:265-269、2006

小児脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療.脳神経外科ジャーナル 17:130-136、2008

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後の嚢胞形成.脳卒中の外科 38:228-234, 2010.

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後に生じる血管腫様病変の画像および病理所見について.CI研究 32:209-214, 2010

脳動静脈奇形ガンマナイフ治療後の長期合併症に対する手術適応.定位的放射線治療 15:71-76, 2011

脳動静脈奇形のガンマナイフ後に生じた血管腫様病変の3手術例.脳卒中の外科 39:347-352, 2011

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ後に生じる嚢胞の増大機序について.定位的放射線治療 16:5-10, 2012

後頭蓋窩脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療.脳卒中 33:393-400, 2011

<5-9>硬膜動静脈瘻 

頭蓋内で動脈と静脈が異常に短絡してしまう(つながってしまう)疾患として、硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)と呼ばれる病気があります。これは頭蓋骨のすぐ内側にある硬膜と呼ばれる膜の中で本来は直接のつながりのない動脈と静脈が何らかの原因で短絡してしまう疾患です。一般に後天的に形成されると考えられており、外傷や静脈洞血栓症などが関連するといわれていますが、多くは原因不明です。

眼球運動障害をきっかけに診断された海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻です。左は診断時の脳血管撮影検査で、動脈相において本来写ってこないはずの海綿静脈洞とよばれる部分が描出されています(左写真矢印)。この患者さんにはカテーテルによる塞栓術(血管内治療)を行い、治癒が得られました。右の写真は治療後ですが治療前に描出されていた海綿静脈洞は写らなくなっています。

上述の患者さんの頭部MRIです(FLAIR画像)。左は治療前、中央は治療から1ヵ月後、右は治療2ヵ月後です。治療前には側頭葉に白い影が見えます(左写真赤矢印)。これは硬膜動静脈瘻によって脳の血液の還流状態が悪化して脳浮腫を来たしており、脳内に出血を生じる恐れがあることを示しています。治療1ヵ月後にはこの白い影は減少しており(中央写真)、2ヵ月後には完全に消失していることがわかります(右写真)。

77歳女性の硬膜動静脈ろうと呼ばれる疾患です.耳鳴りをきっかけに診断されました.左写真の赤矢印は、本来あってはならない異常血管です。

<5-10>三叉神経痛

三叉神経痛も有効度が高いとされ、すでに欧米では相当数が治療されており標準的治療の一つとなっています。本院でもこれまで46例の治療経験があります。除痛が得られる確率は80%以上ですが、顔面の知覚鈍麻や異常感覚等の合併症も稀とは言えません。現在、三叉神経痛に対するガンマナイフ治療は保険診療の適応外となっています.当科では三叉神経痛に対する治療としては基本的には手術が最も望ましいと考えておりますが、何らかの理由により手術が困難な場合、ガンマナイフ治療を考慮することはあります。

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三叉神経の根元に強く照射します(黄色線)痛みは完全に消失しました。
頬に軽い知覚障害を残しています。

<5-11>小児へのガンマナイフ治療

小児でも治療ができます。全身麻酔が必要です。
小児に対しては全身麻酔下でガンマナイフ治療を行うことも可能です。全身麻酔下でのガンマナイフ治療は、火曜日ないしは木曜日に行っています。全身麻酔をかけた後、フレーム固定を行い、それからMRIや血管撮影等の必要な検査を行います。全身麻酔をかけたまま処置室や検査室を移動する必要があり、脳外科医や麻酔科医、放射線技師、各部署の看護師等大勢が協力しながら安全に治療を行います。ガンマナイフ治療が終了した後、フレームをはずし、麻酔を醒まします。治療翌日には退院が可能です。

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    1歳児の眼球腫瘍です

<5-12>副作用

副作用:ガンマナイフは放射線治療です。病変部に集中した照射とはいえ、周辺神経組織への影響は皆無とは言えず、副作用が生じえます。照射後数ヶ月してから周辺脳組織の浮腫壊死を来たすことがあります。脳浮腫の頻度は治療を行う疾患によって大きく異なってきますので、各疾患の解説をお読み下さい。通常は数ヶ月から一年以内に改善しますが症状が強い場合にはステロイドと呼ばれる薬を内服あるいは点滴で投与することがあります。脳浮腫が生じた場合、その発生部位により症状が異なってきます。運動領域に近ければ麻痺や痙攣、後頭葉であれば視野障害、優位半球の言語野であれば失語(言語の理解や発語が障害されている病態)等です。なお、放射線によって周辺脳組織が壊死を来たす確率は一般に5%以下です。聴神経腫瘍や脳動静脈奇形に関しては各疾患の解説をご覧下さい。

本質的には放射線治療ですので、放射線による良性腫瘍の悪性化や放射線誘発腫瘍の可能性は否定できません。良性腫瘍である聴神経腫瘍の悪性化の報告は少ないながらもみられますが、確定的とは言えず、悪性化が生じるとしてもその確率は数千分の一程度であろうと推察されています。

一般にはガンマナイフ治療によって脱毛を生じることはありません。しかし病変が脳表に近い場合には同部に一致して脱毛を来たすことがあります。通常照射後一ヶ月以内に脱毛しはじめますが、また生えてきます。後頭部のピン刺入部に一致してわずかな脱毛を来たすこともあります。

5-6.横浜労災病院症例

1992年2月24日導入より2019年11月まで、横浜労災病院で行ったガンマナイフ治療は12,259例です。その内訳は以下の通りです。

total 12259 総計
Tumors 11006 脳腫瘍
acoustic neurinoma 1027 聴神経腫瘍
neurocytoma 9  
chemodectoma 5  
chordoma 15 脊索腫
craniopharyngioma 57 頭蓋咽頭腫
germinoma 21 胚細胞腫
glioblastoma 173 膠芽腫
glioma astrocytoma 109 星細胞腫
ependymoma 51 上衣腫
oligodendroglioma 42 乏突起膠腫
hemangioblastoma 60 血管芽腫
hemangiopericytoma 26 血管周囲細胞腫
medulloblastoma 8 髄芽腫
malignant lymphoma 129 悪性リンパ腫
meningioma 891 髄膜腫
meta 8024 転移性脳腫瘍
neurinoma others 24 神経鞘腫
pituitary adenoma 186 下垂体腫瘍
teratoma malignant 6 奇形腫
trigeminal neurinoma 38 三叉神経鞘腫
others 109 その他
Functional 61 機能的
trigeminal neuralgia 61 三叉神経痛
Vascular 1158 脳血管障害
AVM 1123 脳動静脈奇形
cavernous angioma 34 海綿状血管腫
aneurysm 1 脳動脈瘤