鼠径ヘルニアについて
鼠径とは足とお腹の間のことで、足の付け根の付近をいいます。ヘルニアとは脱出するという意味で、脱出するものは腸がほとんどなので、通常「脱腸」といわれています。年間数十万人が治療を受けている病気で、当院でも年々受診される方が増えています。
鼠径部は何層もの筋肉の膜で覆われていて、普段は腸が出てこないようになっています。しかし、お腹の圧力(腹圧)が強かったり、筋肉の膜に弱い部分が生じたりすると、鼠径部の隙間が大きくなり、その穴から腸(まれに膀胱、卵巣など)が出てくることになります。大きくなった穴を治療する方法は、今のところ手術しかありません。
ただし、手術はご自身の心臓、肺など重要な臓器の障害によっては行わない方が安全な場合があり、術前に様々な検査を行って判断いたします。
鼠径ヘルニアは悪い病気ではありませんので、症状が軽ければ様子を見ていただいて構いません。しかし、腸が出たまま戻らなくなる嵌頓(かんとん)の状態になると、腸閉塞を起こし、嵌り込んだ腸の血流が悪くなって腐る危険性が出てきます。嵌頓が起きた場合には生命に関わりますので、緊急手術が必要になります。
腸の嵌頓
手術について
当院で行っている手術法は次の通りです。
- ①腹腔鏡手術(TAPP法)
臍と両側腹部に直径5mmのトロッカー(器具を出し入れする筒)を3本挿入して行います。腹腔内から脱出しているヘルニア嚢を切開し、ポリプロピレンでできたメッシュを内側からあてて補強し、最後に腹膜を縫合閉鎖して終了します。手術は通常1時間から1時間半程度で終了します。腹腔内から的確な診断ができ、内鼠径ヘルニア、外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア、それら複合型のヘルニアを1枚のメッシュで確実に覆うことが可能で、両側の鼠径ヘルニアでも同じ創から同時に修復できます。メッシュの挿入部位と展開部位が異なることから感染のリスクが少なく、メッシュの違和感や術後疼痛が前方アプローチに比べて軽微で、早期に社会復帰を希望される方に向いています。
腹腔鏡手術
- ②前方アプローチ(従来法)
鼠径部の皮膚を4~5cm切開して行います。ヘルニア嚢(腸と一緒に出てくる腹膜)をお腹の中に戻した上で、ポリプロピレンでできたメッシュ(人工膜)を体内に入れて穴をふさぎます。(若くて筋肉の膜がしっかりした方は、メッシュを用いず縫縮のみで穴をふさぐこともあります。)手術自体は通常約1時間で終了します。
メッシュの種類によってメッシュプラグ法(図を参照)、ダイレクトクーゲル法、ポリソフト法などがあり、ヘルニアの状態をみて適宜選択いたします。
1990年代以降、数多くの方がこの治療を受けています。
メッシュプラグ法
入院前の外来について
最低でも2回の通院が必要です。手術ご希望の方は初診時に検査を行い、2回目の外来で検査結果と手術の説明・入院の予約を行います。
術後の安静、退院について
手術後3時間以降は歩行、食事が可能です。(手術終了が遅くなった時は、翌日朝からになります。)
発熱、出血などがなければ、翌日退院になります。
合併症について
皮下出血、血腫・・・約10%の方に見られますが、ほとんどは自然消退します。
再発・・・再発率は1~2%以下です。
感染・・・1%以下に創部感染が起こります。
漿液腫・・・大きな鼠径ヘルニアの方は、鼠径部の下に滲出液のたまりが生じることがあります。吸収されるまで数ヶ月以上かかることがあり、外来で水を抜くこともあります。
神経損傷・・・鼠径部周囲に数%の方がしびれを生じますが、ほとんどは半年ほどで回復します。
慢性疼痛・・・鼠径部や睾丸に慢性的な疼痛を生じることがあります。
退院後の注意
1.創について:手術の傷は溶ける素材の糸で皮膚の下を縫合しますので、抜糸の必要はありません。表面に皮膚用の接着剤をつけますので、消毒の必要はなく退院後からシャワーが可能です。
2.痛みについて:痛み止めを処方しますので、痛みに応じて服用して下さい。
3.運動について:日常生活に制限はありません。1週間ぐらいは、腹圧がかかるような激しい運動を控え、自転車などまたがる乗り物は避けて下さい。
4.食事について:何を食べても結構です。
5.退院後の外来について:退院時に次回の予約票をお渡しします。
- ※2泊3日の入院が基本になりますが、合併疾患のない方は1泊2日の入院(入院当日の手術)も可能です。(ただし抗凝固薬、抗血小板薬を服用中の方は入院期間が長くなることがあります。)詳しくは外来にてご相談下さい。
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