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カテーテル治療 心房細動のクライオアブレーション(冷凍凝固心筋焼灼術)

心房細動に対するカテーテル心筋冷凍焼灼術(アブレーション)
心房細動に対する冷凍焼灼術(クライオアブレーション)

従来の高周波焼灼術はカテーテルで点状に焼灼して左心房と肺静脈の電気的つながりを遮断していたのに対して、冷凍焼灼は亜酸化窒素ガスを使用し、バルーン形状のカテーテルを肺静脈入口部に当てて円周状に焼灼し電気的つながりを遮断できるため、手技時間の短縮が期待されています。 また、高周波焼灼に比べて、治療中の血栓形成リスクが低いことや、コラーゲンなど結合組織の温存などの利点も報告されています。 このバルーンでは変性した左心房への治療ができないため、冷凍焼灼の適応は原則として発作性心房細動のみです。持続性心房細動の場合は高周波カテーテル心筋焼灼が行われます。

カテーテル心筋冷凍焼灼術の準備

まず、左心房と肺静脈の形と走行を把握するため、外来にて造影剤を用いたCT撮影を行います。左心房と肺静脈を3次元画像に合成しても らい、その形状から冷凍焼灼が可能かどうかを判断します。造影剤にはアレルギーの可能性や腎臓に負担をかける可能性があり、重症な合併症出現時は入院加療が必要となります。また、CTの画像から左心房(左心耳)に血栓がないことを確認します。超音波検査でも血栓の確認を行いますが、左心房は心臓の最も後方にあるため、胸から観察する通常の心臓超音波検査では判定ができない場合があります。CTで血栓の存在が否定できない場合や、もともと塞栓症発症のリスクが高い方には、経食道心臓超音波検査を行い左心房内の血栓がないことを確認します。これは胃内視鏡のようになっている超音波検査機械を、胃内視鏡と同様に食道に入れていき心臓内を観察する検査です。食道は心臓のすぐ裏に走っているため食道から超音波を当てた場合は左心房が最も見やすい位置に来ることになり、きわめて鮮明な画像を得ることができます。

カテーテル冷凍焼灼術の方法(含麻酔法)

手術室に入室した後、胸と背中に多くのモニターを貼ります。治療のほとんどの時間を鎮静した状態(寝ている状態)で進めるため、まず鎮静剤(プロポフォール、デクスメデトミジン、フェンタニルなど)を投与します。薬の作用で意識がぼんやりしてきたところで、呼吸の補助をするための太めのチューブ(iGEL)を喉のところまで入れていきます。このチューブから酸素を送り込んで、鎮静剤によって呼吸が弱くなり酸素が不足してしまうことを予防します。鎮静剤投与で血圧が下がってしまう場合は昇圧剤を使いますが、鎮静剤が継続できず、すこし目が覚めた状態のまま治療を行うこともあります。

呼吸状態が安定した後、局所麻酔を足の付け根(鼠径部)・右鎖骨下(右頸部)に行い、大腿静脈や鎖骨下静脈に電極カテーテルを出し入れするための管(シース)を4-5本入れていきます。このとき皮膚を大きく切ったりすることはありません。シースを通して検査・治療用のカテーテルを血管内に入れ、レントゲン撮影下に心臓内まで安全に進めていきます。静脈から挿入したカテーテルはまず右心房に到達しますが、左心房内をアブレーションするためには右心房と左心房の間の壁(心房中隔)に穴を開けて管を通していく必要があります。安全のために血管内超音波や多方向のレントゲン透視装置を使用して、心房中隔に存在する膜のような薄い部分に長い針を刺して管を左心房に進めます。心房中隔に明けた穴は数ヶ月で自然に閉鎖されることがわかっています。管を通じて左心房・肺静脈の造影を行い治療する部位を確認します。

冷凍焼灼を行うためのカテーテルはこの穴を通して左心房まで進め、まず柔らかいワイヤーを治療すべき肺静脈内に入れていきます。そのワイヤーをガイドにして、肺静脈の入口に膨らませたバルーンをしっかり当てます。バルーン先端から造影剤を注入しバルーンがしっかり静脈壁に接していることを確認したのち、亜酸化窒素ガスをバルーン内に送り込んで-40-50℃程度まで冷却し、そのまま120-180秒間の冷凍焼灼を行います。肺静脈の電気的隔離を確認し、不十分な場合は繰り返しバルーンでの治療を行います。時には高周波カテーテルにて追加治療を行うこともあります。左右上下4本の肺静脈に対してそれぞれ治療を行い冷凍焼灼が終了します。

この治療の合併症の一つとして左房食道瘻がありますが、これを避けるために鼻から食道へ温度センサーを挿入し、食道内の温度を測りながらアブレーションを行うことがあります。また、心臓のすぐ横を走行している横隔神経への障害を予防するため、右肺静脈の焼灼時には弱い電気刺激を行います。麻酔で寝ていますので苦痛はありませんが、このとき、しゃっくりのような刺激をわずかに感じるかもしれません。

治療中に心房細動が出現し自然停止されない場合は、体表面から電気ショックにより正常なリズムに戻したり、肺静脈-左心房間の伝導を増強する薬品を投与したりして心房細動を停止させることがあります。冷凍焼灼術の手技時間は1-3時間程度です。

治療が終了したら鎮静剤を止め、喉に入れたチューブを抜去します。電極カテーテルをすべて抜き、医師が手で押さえて止血します。この時止血を容易にするため1針のみ創を縫い合わせることがあります。通常10-20分押さえると止血されます。確実な止血のために、創部をしっかりテープで圧迫固定し、病棟に帰り両足を伸ばしたままの姿勢で安静を保つ必要があります。帰室後6時間以上の安静が必要です。無意識に足を曲げてしまうことを予防するために必要に応じて足を抑制帯で固定させて頂くこともあります。通常、当日の夜間に確認に伺いますが、止血の状況によっては翌朝までベッド上で過ごしていただくことになるかもしれません。翌日からは普通に歩行しても問題ありません。抗凝固薬を再開し、翌々日に退院となります。退院した後の入浴、仕事、軽いスポーツは問題ありませんが、約1週間は足の付け根の部分を鋭角に曲げるような姿勢(正座など)や過激なスポーツは控えてください。

冷凍焼灼終了後1-2週間は心筋の興奮性が高まって一時的な心房細動を生じることがあります。また、心房細動が完全に抑えられていても、正常の波形のまま脈拍が100/分程度まで早くなることがあります。術直後の心房細動は一過性で後に消失することも少なくありません。抗不整脈薬や抗凝固薬の中止はその後の外来で慎重に判断します。2、3ヶ月後も心房細動が残存している場合は3-6か月後に2回目のアブレーションを検討します。2回目のアブレーションでは心房細動再発の原因が肺静脈以外の左心房や右心房となっていることがあるため、カテーテルを用いた高周波焼灼になります。

冷凍焼灼術(クライオアブレーション)を受けなかった場合の見通し・他の治療法

カテーテル心筋冷凍焼灼術を受けなかった場合は、今までと同様に心房細動が起こります。脳梗塞などの血栓症予防の為、リスクに応じた抗凝固療法が必要です。抗不整脈薬を変更したり、複数の薬剤を組み合わせたりして、有効なものが見つかればその内服を続けます。もし有効な薬が見つからない場合は「持続性心房細動」あるいは「慢性心房細動」に移行し固定する可能性が高くなります。「慢性心房細動」で固定してしまった場合は、治療の目標は「細動」を止めることではなく、心拍数を毎分50-80程度のちょうど良い所にコントロールすることになります。

カテーテル心筋冷凍焼灼術の有効性

冷凍焼灼術は2016年から開始された治療です。2016年は当院で48名の患者さんがこの治療を受けています。今後も年間50人ほどの治療を予定しています。高周波カテーテル焼灼術と比べると手術時間は1時間ほど短く、術後心房細動の再発率は同等でした。この傾向は日本の他施設においても同様であると報告されています。短い治療時間で高い有効性が得られ、術者間の技術の差があまり現れにくいということがいえる治療法です。

高周波焼灼との比較(利点・欠点)

体外から血管を穿刺する本数が高周波アブレーションより少なくなりますが、使用するカテーテルはわずかに太くなります。

カテーテル冷凍焼灼術の危険性・合併症

カテーテル冷凍焼灼術には少ないながら危険性や合併症があります。参考までに、海外で発表された合併症の出現頻度を右に示します。(対象患者1308名)

下に記載した合併症以外にも発生率の低い様々な合併症(感染、空気塞栓、気胸、血胸、穿刺部血腫、動静脈瘻、仮性動脈瘤、消化管運動障害、心筋梗塞など)が起こりえます。これら合併症については、細心の注意を払って予防していますが、万が一、起きた場合、あるいは起こる兆候がある場合には、最善と考えられる緊急処置を行い対応いたします。とくに心房細動の患者さんでは、カテーテル検査・治療にかかわらず、日常から脳梗塞の危険性が高いので、とくに治療前・治療中の脳梗塞予防をしっかり行います。 カテーテル焼灼術にはスタッフ全員のチームワークが重要です。循環器科医師数名の他に、看護師・レントゲン技師・臨床工学技師が協力し検査・治療を丁寧に行っています。

合併症 症例総数1308名
横隔神経麻痺 4.7 %
出血などの血管合併症 1.8 %
心タンポナーデ 1.5 %
脳梗塞などの塞栓症 0.6 %
肺静脈狭窄 0.2 %
心臓食道瘻 0 %