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カテーテル治療対象疾患 発作性上室性頻拍

発作性上室性頻拍
病名・病状

心臓には四つの部屋(右心房、左心房、右心室、左心室)があり、電気刺激によって心房→心室の順で規則正しく収縮が繰り返されています。この電気系統に異常が生じて、電気が別の所から異常発生したり、電気を通す電線同士が回路を作ってしまい、電気刺激がぐるぐると回転したりすると脈拍が突然速くなってしまいます。このうち心臓の上側半分である「心房」が関与する頻拍のことを「発作性上室性頻拍」といいます。この頻拍は通常毎分150拍から250拍もの速い脈で、「突然始まり、突然終わる」のが特徴です。症状には動悸・ふらつき・胸痛・息苦しさ・呼吸困難などがあります。頻拍の原因には次に述べる(1)WPW症候群、(2)房室結節リエントリー性頻拍、(3)心房頻拍などがありますが、不整脈に対する心臓カテーテル検査(心臓電気生理学検査)を行うと、どの原因かがはっきりわかります。

(1)WPW症候群

人間の心臓には電気刺激を通す電線が張りめぐらされています(これを刺激伝導系といいます)。この正常な電線以外に余分な電線を先天的に持っている方がいらっしゃいます。その頻度は1000人に数人と言われ、この余分な電線のことを副伝導路と言います。副伝導路があることが普段の心電図ですぐにわかる患者さんを顕在性WPW症候群といい、心臓電気生理学検査をしてはじめてわかる患者さんを潜在性WPW症候群といいます。副伝導路は多くは1本ですが、中には2 - 3本もある患者さんもいます。WPW症候群の患者さんは普段は何の症状もありませんが、発作性上室性頻拍を起こすことがあります。この頻拍は正常な電線と余分な電線(副伝導路)との間に回路ができてしまい、その間を電気刺激がぐるぐると回るために起こります。

(2)房室結節リエントリー性頻拍

心房と心室の間をつないでいる電線の結び目のことを房室結節といいます。この房室結節には電気の通るスピードが速い電線(これを速伝導路といいます)と遅い電線(これを遅伝導路といいます)が束になっています。ふつうは速い電線だけが使用されて電気刺激は伝わっていきますが、まれに速伝道路と遅伝導路とのあいだに回路が形成されてしまいます。この回路を電気刺激が回り始めるとやはり上室性頻拍の発作になります。

(3)心房頻拍

正常な心臓の動きでは、右心房にある洞結節という所から規則正しく電気刺激が発生しています。しかし、心房内の別の場所から電気が異常発生したり、心房の中に電気刺激がぐるぐると回る回路ができたりすると、心房頻拍という上室性頻拍が起こります。心房頻拍の場合、脈拍は毎分100拍から250拍であっても、心房は毎分300拍もの頻度で動いていることもあります。

高周波カテーテル焼灼術(アブレーション)の目的

高周波カテーテル焼灼術(アブレーション)とは電極カテーテルと呼ばれる太さ2mmほどの管(くだ)を使って、頻拍の原因となる個所を探し出し、その頻拍を治してしまう治療方法です。以前はこれらの頻拍を完全に治すには心臓手術が行われていました。副伝導路や遅伝導路、あるいは心房頻拍の異常刺激発生部位をメスで実際に切り取る手術です。高周波カテーテル焼灼術はこの手術療法と同じ目的をもっと簡単に、そして患者さんの身体的負担も少なく行うために開発された治療法です。治療が成功すると、頻拍発作は起きなくなり、いつ発作が起こるかもしれないという不安感からも開放されます。多くの場合不整脈薬の内服も不要になります。

高周波カテーテル焼灼術の方法(含麻酔法)

消毒後、局所麻酔を右足の付け根に行います(場合によって右鎖骨の下あるいは頚部にも行います)。局所麻酔とは歯を抜くときなどに行う麻酔と同じ麻酔です。検査・治療を通じて常に意識はあります。麻酔を行った部分から足の太い静脈(大腿静脈)と鎖骨の下の静脈(鎖骨下静脈)に電極カテーテルと呼ばれる太さ2 mmほどの管(くだ)を入れます。管を血管内に入れるには太い点滴の針を刺す時と同じ方法(穿刺法)で入れますので,皮膚を大きく切ったりすることはありません。合計2本から4本の電極カテーテルをレントゲンを見ながら心臓の中まで入れてゆき、心臓内の要所要所に配置します。そして電極カテーテルから心臓の中の心電図を記録したり,電気刺激を行って上室性頻拍を起こしたりします。起こした上室性頻拍は電極カテーテルからの刺激で止めることもできます。これで上室性頻拍の原因が明らかになります。

つぎに治療を行います。今度は治療用の電極カテーテル(焼灼術用カテーテル)を1本入れます。この際ほとんどのWPW症候群の患者さんは足の付け根の動脈(大腿動脈)も穿刺することが必要となります。その他の上室性頻拍の患者さんは大腿静脈からの穿刺だけで十分です。 治療用電極カテーテルの先端を治療したい部分の真上にもってきます。治療したい部分とはWPW症候群なら副伝導路、房室結節リエントリー頻拍なら遅伝導路、心房頻拍なら異常電気発生部位などです。十分に近い所まで電極カテーテルの先端を進め、そこで高周波と呼ばれる電気を流します。この電気を流すと電極と心臓との接触面が50-60度ぐらいに熱くなり、その熱エネルギーで治療したい部分の細胞が機能しなくなります。すなわち副伝導路や遅伝導路、心房内異常電気発生部位が電気的に活動しなくなります。これでもう二度と頻脈発作は起こらなります。 しかし、流す電気(高周波)の影響する範囲はきわめて狭い範囲(数mm)ので、完全に頻脈を治すには、治療したい部分のすぐ近くに電極カテーテルをもってゆく必要があります。それがいかに確実にできるかによって、治療の難しさ、要する時間などが決まるといえます。高周波を流すときには患者さんによっては胸痛、灼熱感、右肩痛などを感じます。電気を止めると元に戻りますのでご心配は要りません。びっくりして深呼吸や大きい息をしないように注意が必要です。せっかく良い場所に持って行った電極カテーテルの先がずれてしまう恐れがあります。高周波を流すときはこちらで言いますので、なるべく「小さな浅い息」でおねがいします。 検査・治療はすべて患者さんとはお話をしながら進めますので、もし何か異常を感じたら、遠慮せずにおっしゃってください。治療したい部位がうまく治ったあとは、そのまま検査室で30-60分間様子を見ます。30-60分後も上室性頻拍を起こすことが不能で,さらに発作を起こしやすくする点滴を行った後も、頻拍が一切起こらないことを確認して、治療を終了します。検査・治療に要する時間は平均2時間(1時間半から4時間)です。あまりに時間を要する場合は一旦終了して後日再治療を行うこともあります。

治療後、電極カテーテルをすべて抜き、医師が手で押さえて止血します。静脈は10-20分、動脈は15-30分程度押さえると止血されます。確実に止血するために、創部をしっかり圧迫固定し、その状態で病棟に帰り、右足を伸ばしたままの姿勢で安静を保っていただきます。静脈だけなら約4時間、動脈の使用もあると約6時間の安静が必要です。無意識に足を曲げてしまうことを予防するために足を抑制帯で固定させて頂くことがあります。またこの間起き上がることもできませんのでシーツ帯で上半身を固定させて頂くこともあります。翌日は病棟で普通に歩いていただいて結構です。問題がなければ、通常、治療翌日あるいは翌々日に退院となります。退院されてからは入浴、仕事、軽いスポーツは問題ありませんが、約1週間だけ右足の付け根の部分を長時間鋭角に曲げること(正座など)と過激なスポーツはお控えください。

カテーテル焼灼術を受けなかった場合の見通し・他の治療法

高周波カテーテル焼灼術による完治術を受けなかった場合、今までと同様に頻拍発作が出現します。その都度、来院して点滴で停止させるか、発作を予防する目的で内服治療を続けることになります。内服治療は病気を治してしまうわけではなく、あくまで内服しているときだけ頻拍を起こらなくする薬ですので、基本的に飲みつづける必要があります。特に高危険群と判定されたWPW症候群の患者さんは厳重な内服薬での管理が必要となります。数年して頻拍を起こす条件が変化してくると、内服が不要になることもありますが、逆に今まで有効であったお薬が効かなくなってくることもあります。

カテーテル焼灼術の危険性・合併症

カテーテル焼灼術には少ないながら危険性や合併症があります。今まで報告されている合併症としては、血管穿刺に関連したものとして出血・動静脈瘻・静脈炎・気胸など、カテーテル操作に関連したものとして穿孔・心タンポナーデ・心筋梗塞・弁膜症・感染など、高周波通電に関連したものとして房室ブロック・血栓症・血管狭窄などがあります。また血管造影を行う場合には造影剤によるアレルギー反応(吐き気、じんましん、低血圧、ショックなど)が生じる可能性もあります。これらの合併症については、起こらないようにスタッフ全員が十分注意しておりますし、また万が一、起きた場合あるいは起こる兆候がある場合には、次に行うべき緊急処置も十分準備しております。とくに心房細動の患者さんでは、カテーテル検査・治療にかかわらず、日常から脳梗塞の危険性が高いので、とくに治療前・治療中の脳梗塞予防を厳密に行います。当院の医師が今まで施行した症例における合併症を下の表にまとめました。

カテーテル焼灼術にはスタッフ全員のチームワークが重要です。循環器科医師数名の他に、看護師・レントゲン技師・臨床工学技師が検査・治療にたずさわり、また万全を期すために病院と契約した医療機器メーカーの技術者も待機しております。

合併症 症例総数5390例中
(1992年~2014年)
死亡 1 (0.02 %)
脳血栓・塞栓(後遺症あり) 1 (0.02 %)
脳血栓・塞栓(後遺症なし) 1 (0.02 %)
一過性脳虚血 1 (0.02 %)
空気塞栓 2 (0.03 %)
敗血症 0
心筋梗塞 0
冠動脈狭窄 0
穿孔・心タンポナーデ 8 (0.12 %)
心膜液貯留(処置せずに軽快) 2 (0.03 %)
房室ブロック 1 (0.02 %)
心臓食道瘻 0
肺静脈狭窄 1 (0.02 %)
対極板部皮膚熱傷 1 (0.02 %)
肺塞栓 0
気胸 2 (0.03 %)
血胸 0
弁損傷 0
消化管運動障害(一過性) 1 (0.02 %)
消化管運動障害(持続性) 0
造影剤によるショック 0
大動脈解離 0
横隔膜神経麻痺(一過性) 1 (0.02 %)
仮性動脈瘤(穿刺部位) 2 (0.03 %)
動静脈瘻(穿刺部位) 1 (0.02 %)
冠静脈洞解離 0
後腹膜血腫 0
消化管出血 0
輸血が必要な穿刺部血腫 0