メール相談から学ぶ働く人のメンタルヘルス(第43回) 2023年9月4日
勤労者メンタルヘルスセンター長 山本晴義
- ※新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行に伴い、タイトルを一新しました。今後はより広い形で、働く人のメンタルヘルスについて発信していきます。
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事例㊸ 上司が意見を聞いてくれず虚しいです。
(相談者 男性 20代 事務職)
【相談メール】
私の上司は「みんなの意見を取り入れる」という姿勢で、私たちにもよく意見を求めます。ただ、上司の方針に賛同すると嬉しそうに話を進めますが、方針と異なる意見には「あなたの意見はわかりました」と返すだけ。結局方針は変えません。根は良い人なので「気軽に何でも言って」と言うのですが、「賛同してほしいだけで、どうせ取り入れないくせに」と思い、虚しくなります。
【回答メール】
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お悩みのご様子、伝わってきます。
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「相反する2つのメッセージを同時に受けて、身動きのとれない状態」のことを、専門用語でダブルバインド(二重拘束)といいます。
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たとえば、母親が子どもに対して、口では「愛してる」と言いながらも、嫌そうな表情を示していたら、子どもはどちらを信じていいのかわからず混乱します。
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仕事上のことに当てはめると、「なんでも相談しろ」と言われていて、いざ相談したら「それくらい自分で考えろ」と怒られるようなパターンは典型でしょう。
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厳密に言えば元々のダブルバインド理論とは違うのですが、そのような状況に置かれ続けることがメンタルヘルス上良くないことは目に見えています。
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現実的な対応のコツとしては、「非言語的メッセージ」を優先させることです。
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あなたも気づいているように、賛同され嬉しそうにしているのなら、「賛同し一緒に話を進めてほしい」というのが本来のメッセージだということです。「気軽に何でも言って」という言葉も同じように受け取るから虚しくなるのです。振り回されず、初めからそのようなメッセージなのだと割り切りましょう。
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もちろん、明らかに業務に支障が出るような方針であれば、まっとうな意見や懸念としてきちんと伝えてください。それでも何も聞き入れず問題があるようなら、さらに上の上司や社内の相談窓口に申し出て、適切な対応をしてもらいましょう。
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【対応のポイント】
カウンセリングの世界では、話の「内容」と「文脈」を分けて考えます。「内容」は矛盾していたり統一性がなさそうでも、「文脈」として見ると一貫したメッセージがある、というのはよくある話です。完全に理解して応じるのはプロでも難しいことですが、日常生活に使えるちょっとしたヒントになればと思って示しています。
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※ 実際に送られてきた相談メールを参考に、相談者のプライバシーを考慮して作成しています。
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勤労者こころのメール相談(mental-tel@yokohamah.johas.go.jp)
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