横浜労災病院 脳神経血管内治療科 戸村 九月(とむら ながつき)です。
当科は機械的血栓回収療法をはじめとした頭頸部血管疾患を対象とする血管内治療を行うことを目的に新設され、脳神経内科・脳神経外科と共に、脳卒中センターの一部門として24時間体制での診療対応を行っております。
当院では虚血性脳血管障害の場合には脳神経内科、出血性脳卒中やシャント関連疾患等に関しては脳神経外科での加療を行なっているため、両科との疎通性を高めることで質の高い治療を提供することも当科の仕事と考えております。
また、同一医療圏においては、開業医の先生方との連携にも積極的に取り組んでおり、日々診察される中で難渋する症例も積極的に受け入れることで、地域医療の発展に可能な限り貢献したいと考えています。
同一医療圏においては、開業医の先生方との連携にも積極的に取り組んでおり、日々診察される中で、お困りのケースも積極的に受け入れており、地域医療の発展に可能な限り貢献したいと考えています。
戸村 九月
脳神経血管内治療科
副部長
近年、健康への関心の高まりと共に脳ドックが普及し、偶発的に脳動脈瘤を指摘される例が多くなっており、その有病率は3.2%と報告されています¹⁾。
当科でも精査目的の紹介患者数は年々増えておりますが、UCAS japanにより日本人におけるリスク因子が明確になったことや、脳動脈瘤に関連した複数のスコアリングが浸透したことで、リスク評価は行いやすくなりました²⁾。
今回は、当院の特徴を簡単に紹介させて頂いた後に、当科での未破裂動脈瘤に対する診療の取り組みやポイントを紹介致します。日々診察される中で、どのタイミングで紹介したらよいかわからない、というケースもあると思います。宜しければご一読頂き、先生方の日常診療に役立てて頂ければ幸いです。
硬膜内では破裂時にくも膜下出血を生じるのに対し、硬膜外では増大時には眼筋麻痺や眼窩部痛を生じ、破裂時には内頸動脈海綿静脈洞瘻(以下、carotid-cavernous fistula: CCF)を発症することがあり、両者は全く異なる臨床経過を呈します(今回、くも膜下出血の臨床経過については割愛させて頂きます)。
CCFの症状として、眼球突出や複視、耳鳴りなどが知られますが、これらの症状はshuntによる流出静脈の部位によって異なります。
時に脳皮質静脈への逆流を伴い、脳出血から重篤な転帰となる場合がありますが、血管内治療による母血管閉塞や母血管を温存したshunt部閉塞の良好な成績が報告されており、近年のデバイス進化も相まって、動脈瘤破裂によるCCFは予後良好な疾患群と言えます⁴⁾。
そのため、動脈瘤と硬膜面との位置関係が判断困難な動脈瘤においても、髄液と神経血管系を高いコントラストで示すことが可能なHeavyT2 強調画像(当院の撮像条件ではCISS:constructive interference in steady state)と、TOF(time of flight)法による血管画像を比較することで硬膜と動脈瘤との位置関係を可能な限り判断し、治療方針の検討や紹介元へフィードバックに活用するよう努めております。
また、これらは患者説明の際にも病態の共有における一助となると考えております。
当院での症例画像を供覧致します(Fig.2, 3, 4)。
当科では、破裂リスクが低く経過観察の方針とした場合でも、初回画像から半年以内に再検を行った後に、結果により半年ないし1年後に再フォローを行うように撮像期間を設けております。
多くの動脈瘤は著変なく経過しますが、稀に一定期間後の画像フォロー時に増大している症例を経験します。
動脈瘤の増大は、3.54%/年と報告されており⁵⁾、破裂リスクに関しては、3.1%/年や18.5%/人年と報告にばらつきはあるものの、通常の動脈瘤に比べて高い病態であると認識しておく必要があります⁶⁾ ⁷⁾。
Kampらは、増大を認めた動脈瘤のリスク評価として、Triple-S Prediction Modelを提唱しており(Fig.5)、このモデルでは発見から半年でも一定の破裂リスクがあり、中でもMCA瘤が最も破裂率が高いことは注目すべきポイントだと思います。
また、本報告において対象となった312例の動脈瘤のうち、約半数が5mm未満でありましたが、1mm以上の増大を認めてから1年以内に破裂する絶対リスクは4.3%と高く⁸⁾、小型瘤であっても増大時には専門医への紹介が必要と考えられます。
以上、当院の特徴と当科における未破裂動脈瘤に関連した取り組みと、動脈瘤の増大時やDNAnを認めた際のポイントに関して述べさせて頂きました。ご一読頂いた先生の中には、文面として理解できても判断に悩む症例もあると思います。あるいは今回の内容以外にもAcomやPcomの小型動脈瘤や家族歴を有する症例、多発例など日頃対応に困っておられる症例も当然あると思いますので、お気軽に当科外来までご紹介頂ければ幸いです。
尚、今回は未破裂動脈瘤の内容を紹介させて頂きましたが、当科では虚血性脳血管障害やシャント疾患においても治療を行っております。精査結果をフィードバックしつつ、良質な地域医療を目指していきたいと考えておりますので、今後とも何卒宜しくお願い致します。