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~判断に迷う際は横浜労災へ~ 未破裂脳動脈瘤における診断・紹介時のポイント

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 横浜労災病院 脳神経血管内治療科 戸村 九月(とむら ながつき)です。
 当科は機械的血栓回収療法をはじめとした頭頸部血管疾患を対象とする血管内治療を行うことを目的に新設され、脳神経内科・脳神経外科と共に、脳卒中センターの一部門として24時間体制での診療対応を行っております。
 当院では虚血性脳血管障害の場合には脳神経内科、出血性脳卒中やシャント関連疾患等に関しては脳神経外科での加療を行なっているため、両科との疎通性を高めることで質の高い治療を提供することも当科の仕事と考えております。
 また、同一医療圏においては、開業医の先生方との連携にも積極的に取り組んでおり、日々診察される中で難渋する症例も積極的に受け入れることで、地域医療の発展に可能な限り貢献したいと考えています。

 同一医療圏においては、開業医の先生方との連携にも積極的に取り組んでおり、日々診察される中で、お困りのケースも積極的に受け入れており、地域医療の発展に可能な限り貢献したいと考えています。

戸村 九月

戸村 九月

脳神経血管内治療科
副部長

 

はじめに

 近年、健康への関心の高まりと共に脳ドックが普及し、偶発的に脳動脈瘤を指摘される例が多くなっており、その有病率は3.2%と報告されています¹⁾。
 当科でも精査目的の紹介患者数は年々増えておりますが、UCAS japanにより日本人におけるリスク因子が明確になったことや、脳動脈瘤に関連した複数のスコアリングが浸透したことで、リスク評価は行いやすくなりました²⁾。

 今回は、当院の特徴を簡単に紹介させて頂いた後に、当科での未破裂動脈瘤に対する診療の取り組みやポイントを紹介致します。日々診察される中で、どのタイミングで紹介したらよいかわからない、というケースもあると思います。宜しければご一読頂き、先生方の日常診療に役立てて頂ければ幸いです。

 

総合病院としての診療の強み

 

当院は36の診療科と650の病床数を有する、横浜市北部の新横浜駅から程近い総合病院です。

 救急医療にも積極的に取り組んでおり、急性期治療も数多く行っております。
 救急疾患においては幅広い専門性を有するメリットは、複雑な疾患背景の周術期管理を行う際に活きてくると考えております。
 当科においても、基礎疾患のコントロールはもとより、術後感染症や創部トラブル、くも膜下出血に伴う動眼神経麻痺やTerson症候群などの眼症状、硬膜動静脈瘻における耳鳴りや嚥下障害、脳卒中に関連する神経因性膀胱やうつ病、急性期病変に続発した消化管出血など、頭蓋内疾患に伴う多様な併発症や続発症が生じる可能性がありますが、急性期加療中の治療介入を要するかどうかの判断に相談する事、医療者側としても安心して原疾患の加療に向き合う事ができます。

 

内頸動脈瘤に対する画像評価の工夫

 内頸動脈瘤は、頭蓋内では複数の分岐血管を有しているため、様々な部位に動脈瘤が形成されますが、paraclinoidにおいては、硬膜内あるいは硬膜外のいずれに動脈瘤の主座があるかをできる限り特定することが、臨床的には重要と考えます(Fig.1)³⁾。

  

 

 硬膜内では破裂時にくも膜下出血を生じるのに対し、硬膜外では増大時には眼筋麻痺や眼窩部痛を生じ、破裂時には内頸動脈海綿静脈洞瘻(以下、carotid-cavernous fistula: CCF)を発症することがあり、両者は全く異なる臨床経過を呈します(今回、くも膜下出血の臨床経過については割愛させて頂きます)。
 CCFの症状として、眼球突出や複視、耳鳴りなどが知られますが、これらの症状はshuntによる流出静脈の部位によって異なります。
 時に脳皮質静脈への逆流を伴い、脳出血から重篤な転帰となる場合がありますが、血管内治療による母血管閉塞や母血管を温存したshunt部閉塞の良好な成績が報告されており、近年のデバイス進化も相まって、動脈瘤破裂によるCCFは予後良好な疾患群と言えます⁴⁾。
 
 そのため、動脈瘤と硬膜面との位置関係が判断困難な動脈瘤においても、髄液と神経血管系を高いコントラストで示すことが可能なHeavyT2 強調画像(当院の撮像条件ではCISS:constructive interference in steady state)と、TOF(time of flight)法による血管画像を比較することで硬膜と動脈瘤との位置関係を可能な限り判断し、治療方針の検討や紹介元へフィードバックに活用するよう努めております。
 また、これらは患者説明の際にも病態の共有における一助となると考えております。
 当院での症例画像を供覧致します(Fig.2, 3, 4)。

 

 

動脈瘤の増大時に知っておきたいこと

 当科では、破裂リスクが低く経過観察の方針とした場合でも、初回画像から半年以内に再検を行った後に、結果により半年ないし1年後に再フォローを行うように撮像期間を設けております。

 多くの動脈瘤は著変なく経過しますが、稀に一定期間後の画像フォロー時に増大している症例を経験します。
 動脈瘤の増大は、3.54%/年と報告されており⁵⁾、破裂リスクに関しては、3.1%/年や18.5%/人年と報告にばらつきはあるものの、通常の動脈瘤に比べて高い病態であると認識しておく必要があります⁶⁾ ⁷⁾。
 Kampらは、増大を認めた動脈瘤のリスク評価として、Triple-S Prediction Modelを提唱しており(Fig.5)、このモデルでは発見から半年でも一定の破裂リスクがあり、中でもMCA瘤が最も破裂率が高いことは注目すべきポイントだと思います。

 また、本報告において対象となった312例の動脈瘤のうち、約半数が5mm未満でありましたが、1mm以上の増大を認めてから1年以内に破裂する絶対リスクは4.3%と高く⁸⁾、小型瘤であっても増大時には専門医への紹介が必要と考えられます。

 

新規動脈瘤(de novo aneurysm:DNAn)を認めたら

 DNAnに関しては、画像フォローの際に関心病変以外の新規動脈瘤を指摘するという意味において、評価者側に依存する側面がありますが、くも膜下出血の既往あるいは未破裂瘤を有する背景患者において、0.3-1.8%/年に認めるという報告があります⁹⁾。
 また、メタアナライシスでは8年以上の画像評価を行った際の2%にDNAnを認め、そのうちの88.8%は6年目以降に認めたとしており¹⁰⁾、DNAnを認めた際には、以前の画像があれば振り返り、出現時期を明確にする作業も必要と考えます。
 発症に関連する因子として、高血圧や喫煙歴、女性、家族歴などが挙げられていますが、これは前述の動脈瘤増大における関連因子とおよそ同様の結果でした。 

 

血管撮影の低侵襲化を目指して

最後になりますが、当科では動脈瘤精査において血管撮影での精査を行う場合、2泊3日での入院日程(前日入院を行って検査の翌朝に退院)で行なっておりますが、昨年度から橈骨動脈や橈骨動脈遠位からの血管撮影を積極的に行うようにしています。
 必要な撮影が十分に実施できる事が最低条件になるため全例ではありませんが、主に穿刺部合併症の軽減と、検査後の安静により生じるストレスの緩和を目的に変更した次第です。
 同様に血管内治療においても、有効性と安全性が担保できる症例においては積極的に同アプローチで行う方針としており、検査後の患者満足度の高さを実感しております。 

 

最後に

以上、当院の特徴と当科における未破裂動脈瘤に関連した取り組みと、動脈瘤の増大時やDNAnを認めた際のポイントに関して述べさせて頂きました。ご一読頂いた先生の中には、文面として理解できても判断に悩む症例もあると思います。あるいは今回の内容以外にもAcomやPcomの小型動脈瘤や家族歴を有する症例、多発例など日頃対応に困っておられる症例も当然あると思いますので、お気軽に当科外来までご紹介頂ければ幸いです。

 尚、今回は未破裂動脈瘤の内容を紹介させて頂きましたが、当科では虚血性脳血管障害やシャント疾患においても治療を行っております。精査結果をフィードバックしつつ、良質な地域医療を目指していきたいと考えておりますので、今後とも何卒宜しくお願い致します。

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引用文献

  • 1. Harada K et al., Acta Neurochir (Wien). 155(11):2037-43, 2013. Prevalence of unruptured intracranial aneurysms in healthy asymptomatic Japanese adults: differences in gender and age.
  • 2. Morita A et al., N Engl J Med. 28;366(26):2474-82, 2012. The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort.
  • 3. Michael T. Lawtons. Seven aneurysmSeven Aneurysms. Tenets and Techniques for Clipping, Thieme 2011
  • 4. Henderson AD et al, Eye. 32(2): 164–172, 2018. Carotid-cavernous fistula: current concepts in aetiology, investigation, and management. 
  • 5. Serrone JC et al., J Neurosurg. 125:1374-1382, 2016. Aneurysm growth and de novo aneurysms during aneurysm surveillance. 
  • 6. Brinjikji W et al., AJNR Am J Neuroradiol. 37(4):615-20, 2016. Risk Factors for Growth of Intracranial Aneurysms: A Systematic Review and Meta-Analysis 
  • 7. Inoue T et al., J Neurosurg. 117(1):20-5, 2012. Annual rupture risk of growing unruptured cerebral aneurysms detected by magnetic resonance angiography
  • 8. van der Kamp LT et al., JAMA Neurol. 78(10):1228-1235, 2021. Risk of Rupture After Intracranial Aneurysm Growth.
  • 9. Ferns SP et al., Stroke. 42(2):313-8, 2011.  De Novo Aneurysm Formation and Growth of Untreated Aneurysms.
  • 10. Giordan E, et al., J Neurosurg. 6;131(1):14-24, 2018. Risk of de novo aneurysm formation in patients with a prior diagnosis of ruptured or unruptured aneurysm: systematic review and meta-analysis 

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