はじめまして、横浜労災病院 脳神経外科の周藤 高(しゅうとう たかし)です。
当科では頭蓋内疾患に対する手術および放射線治療の双方を行っており、特に脳腫瘍の症例数が多いことが大きな特徴です。
頭蓋底腫瘍や悪性脳腫瘍などの治療困難な腫瘍に対しても、手術とともに最新の高精度放射線治療を組み合わせた治療を行っております。
今回は、その中でも、患者メリットの大きい「脳定位的放射線治療装置ガンマナイフ」と「高精度放射線治療装置ノバリス」を用いた治療についてご紹介いたします。
周藤 高
副院長
脳神経外科部長
当科では原則手術による摘出を第一選択としており、可能な限り手術での全摘出を目指しておりますが、同時に、最も重要なことは患者さんごとに最適な治療法を選択することであると考えております。例えば下垂体腺腫では開頭手術よりもむしろ内視鏡を用いた経蝶形骨洞腫瘍摘出術により腫瘍の全摘出を行っており、摘出困難な例に対しては放射線治療を組み合わせることにより高い治療効果を得ています。患者さんにとって最適な治療戦略を多角的な視点から検討するため、日々カンファレンスで検討し、決定しています。
脳腫瘍治療においては、患者さんの状態を正しく見極めること、そしてそれに対応できる幅広い治療選択があることが重要です。当科では手術、化学療法、ガンマナイフやノバリスによるIMRTを含む定位放射線治療を駆使した集学的な治療を行っております。
冒頭にお伝えした通り、今回はその中でも「脳定位放射線治療装置ガンマナイフ」と「高精度放射線治療装置ノバリス」を用いた治療の取組についてご紹介いたします。
ガンマナイフは脳の病変に対する定位的放射線治療装置の1つです。放射線を一点に集めて照射するため、開頭する必要がなく、脳腫瘍、脳動静脈奇形などの疾患を局所麻酔下で治療することが可能です。192個の線源(コバルト60)から出るガンマ線は一つ一つは微弱ですが、これらのビームが集中することにより高線量で病巣に正確に照射できるようになっており、その誤差は1ミリメートル以下です。
ガンマナイフではいくつものショットを重ねて立体構造を作ります。そのため、複雑な構造をもつ病変でも病変全体を正確に照射することが可能です。
下図では黄色線の部分で腫瘍を完全に取り囲んでいます。
病変周囲の脳実質や血管には照射線量が極めて少なく放射線の影響が最小限になるため、従来の手術では到達することが困難であった脳深部や危険な部位でも治療が可能です。体力的な負担が少ないため、開頭手術では合併症リスクの高い患者さんや高齢の方でも治療可能であるほか、手術でとり切れなかった腫瘍や脳動静脈奇形、再発腫瘍に対しても効果を発揮します。
当院では2021年12月より、ガンマナイフ・アイコンモデルでの治療を行っております。
本モデルでは1回の操作で治療を完了できるため、大幅に治療時間を短縮でき、患者さんの負担が格段に少なくなっています。また、放射線遮蔽能力も従来モデルと比較し最大100倍高くなっているため、患者さんの被爆が圧倒的に少なくなっております。更に、頭蓋内のほとんどの部位をカバーできるようにもなったことで、頭蓋底深部や頭蓋頸椎移行部、頭蓋外側部等の治療が問題なくできるだけでなく、10個以上の多発脳転移への対応がより容易となりました。これにより、全脳照射をできるだけ避けたいという患者さんの要望に添うことが出来るようになりました。加えてマスク固定による治療が可能となったために、比較的大きな腫瘍であっても分割照射を行うことにより安全に治療することが可能になりました。
前述の通り、治療効果・患者メリットの観点から、当科では積極的にガンマナイフ治療を実践しており、1991年の開院からの治療件数は2022年2月で総数13,000例を超えました。
その内訳は、
転移性脳腫瘍 8836
脳動静脈奇形 1259
髄膜腫 1018
聴神経腫瘍 1108
その他 1304
であり、2021年は605件のガンマナイフ治療を行いました。手術は局所麻酔で行います。
手術時間は症例によって異なりますが約30分~60分です。
病状によってはそれ以上かかることもあります。
ガンマナイフは多くの頭蓋内疾患に適応があります。髄膜腫や聴神経腫瘍、下垂体腺腫等の良性腫瘍、転移性脳腫瘍、脳動静脈奇形、三叉神経痛などが挙げられます。ただし、これらの疾患の中でも手術が最善である場合も少なくないため、当科では患者さんの状態や希望なども考慮した上で最善の治療法を選択します。放射線治療について当科ではあらゆる照射法が可能です。
先に紹介したガンマナイフに加えて、当科では新たな定位放射線治療装置であるノバリスの最新モデル ノバリスSTx日本第1号機を導入しております。
ノバリスは定位放射線治療専用に開発された高精度リニアック照射機器であり、強度変調照射(IMRT)などの多様な治療計画を可能にするソフトウェアと、精度の高い照射技術・赤外線とX線の監視システムによる体動追跡・微修正機能などのハードウェアが融合した非常に優れた放射線治療装置です。
当科のノバリスでの治療件数は2022年2月で総数800例を超えました。
その内訳は、
転移性脳腫瘍 509
神経膠腫 152
髄膜腫 82
その他 83
であり、2021年は95件のノバリス治療を行いました。
ガンマナイフとノバリスを合わせ、2021年は当科で700件の定位放射線治療を行いました。
前述のガンマナイフに加えてノバリスも有することで、当院では数ミリ大の微小病変から3センチを超える比較的大きな病変まで放射線治療が可能となりました。開頭手術と同様の治療効果が期待されるだけでなく、合併症や体の負担が極めて少ない最先端の治療法です。
以前に他院で放射線治療を行いましたが、再発した例です。(下図赤矢印)
当科の治療スタンスとして、再照射は放射線障害のリスクが高いため、可能な限り分割照射が望ましいと考えています。そのため、ノバリスによる分割再照射を行い、MRI画像上腫瘍はほぼ消失しました。
視神経は放射線に弱いため、治療の際には十分に注意する必要があります。視神経の耐容線量と乳がんの放射線感受性を考慮した上で、慎重に35Gy/10分割の線量で照射しました。
下図の通り、治療から8か月後には腫瘍はほぼ消失し、視機能の悪化も生じませんでした。下図の上段2枚は放射線治療前、下段の2枚は治療から8か月後のMRI画像です。
当科ではあらゆる脳腫瘍に対して、今回ご紹介した放射線治療のほか、手術、化学療法も駆使した集学的治療が可能です。くも膜下出血や未破裂脳動脈瘤等の血管障害や頭部外傷に対しても24時間体制で早期の積極的治療を行っております。
是非とも患者さんをご紹介賜りますよう、お願い申し上げます。