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働きたい気持ちに応える、神経難病治療と仕事の両立へ

  • お知らせ

横浜労災病院 脳神経内科・神経筋疾患部の中山 貴博(なかやま たかひろ)です。
脳神経内科では脳・脊髄の神経系から末梢神経の末端にある筋に至る様々な疾患について、急性・慢性に関わらず診療しています。

特に急性期疾患である脳卒中では、地域のかかりつけ医の先生方から発症時に紹介いただくだけでなく、連携して生活習慣病を管理していただくことで、慢性期の脳卒中再発を予防しています。また、パーキンソン病等の神経変性疾患についても、定期的な脳神経内科への受診と、かかりつけ医の先生方との受診を組み合わせて診療して薬剤を調整し、患者さんが安心して治療を受けられるような体制をとることが多いです。

 

さて、脳神経内科の神経難病は文字通り難治性の疾患で、発症機序が解明されていない難解な疾患も多いのですが、最近は大量免疫グロブリン投与や、酵素補充療法、モノクローナル抗体、遺伝子治療など様々な治療法が開発され、治療不可能と思われていた患者さんが治療可能となる場合もでてきております。ここで地域のかかりつけ医からご紹介いただきました2つの症例、末梢神経障害と筋疾患について提示します。 

 

症例1:特殊作業に従事している60歳男性

 当院受診の4ヶ月前、右手の握力低下を自覚し近医 整形外科を受診。そこで頸椎MRIにより脊柱管狭窄を指摘されました。さらに受診3ヶ月前に左手の握力低下も自覚。受診2ヶ月前には再度両手の握力低下を自覚するとともにゴルフのスコアが落ち、両肘以遠のこわばり感を自覚したことから、再度近医 整形外科を受診。その際、膠原病・リウマチの検査を受けましたが異常なく、当院紹介受診となりました。当院で検査等を行ったところ、近位筋~遠位筋に及ぶ びまん性の筋力低下、腱反射の著明な低下~消失を認め、神経伝導検査において伝導ブロック・軽度の時間的分散を認めました。他疾患を除外の上、「慢性炎症性脱髄性多発神経炎」と診断いたしました。治療法として“免疫グロブリン大量療法”を5日間実施したところ、握力が入院時10kg程度であったが35kg以上にまで改善しました。

 

(表1)入院時 神経伝導検査

以降、再発予防のために、ステロイド投与を開始。再燃が数回あり 定期的な免疫グロブリン投与を組み合わせて、増悪が抑制されています。就労に合わせて点滴投与日を調整し、患者さんの希望である特殊作業への就労を継続できております。

 

症例2:50歳代男性、会社員

20歳代から肝機能障害を指摘され、40歳代から走りにくさや階段昇降のしにくさを自覚、さらに重たい物が持ちづらくなったことから、近医 受診。そこで高CK血症を指摘されるとともに、“筋疾患” が疑われたことから当科紹介受診となりました。

当院で検査等を行ったところ、大腿近位部と膝関節屈曲の筋力低下を認め、肺活量は%VC 71.6%と低値、針筋電図上の慢性筋原性変化を認めました。各種膠原病は否定され、筋CTでは腰部傍脊柱筋と大腿屈筋群、大臀筋の脂肪置換を認めました。

 

(図1)筋CT

筋MRIでも筋炎は否定的でした。“筋ジストロフィー”を疑って筋生検を施行。検査結果から“ポンペ病”が疑われ、皮膚線維芽細胞中αグルコシダーゼ酵素活性低下から確定診断となり、「成人型ポンペ病」と考えられました。診断数年後から“アルグルコシダーゼによる酵素補充療法”が可能となり治療を開始。CK値や肝機能酵素の改善を認めました。平地歩行可能で運動機能は維持されていますが、10年の経過で呼吸筋力が低下し、夜間酸素飽和度低下も認めたため、“夜間の鼻マスクによる非侵襲的呼吸管理療法(NPPV)”を開始しました。コロナ禍になり在宅勤務中心となっていますが、現在も歩行・就労とも可能であり、患者さんの希望に添うことができています。

 

様々な診療科のかかりつけ医の先生方と行う脳神経内科治療

手指の筋力低下が慢性的に進行する末梢神経障害では、整形外科的疾患と鑑別が難しく、症例1も整形外科からの紹介です。症例2は膠原病が考えにくい高CK血症のため、内科から紹介いただき、当初は筋ジストロフィーを疑いました。様々な手法を用いて適切に診断し、開発された治療法を継続することで、病状が安定して就労が継続できています。“治療が奏功しない四肢末梢の筋力低下症例や原因不明の筋疾患の中に、治療可能な疾患が存在する”ことをご紹介しました。神経難病の中でも治療可能となってきている疾患が存在し、当院では積極的に治療を行っておりますので、ご紹介頂きたく思います。
 

2つの症例のまとめ 

 

患者さんの「働きたい」という気持ちに応えるために

当院では治療を受ける人の「働きたい」という気持ちに応えるため、治療と仕事の両立支援にも積極的に取り組んでおります。両立支援コーディネーターを中心として企業側と病院側とで文書などを使用して意見を交換し、患者さんの治療と仕事の両立を支援しています。当院は“みんなでやさしい明るい医療”を理念とし、脳神経内科でもそのような医療を提供したいと考えております。

数か月以上治療が奏功しない四肢末梢の筋力低下症例や、数か月以上CK異常高値が持続する原因不明の筋疾患症例がございましたら、是非お気軽に当院にご紹介ください。

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