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原発性アルドステロン症 ~リーディングホスピタルである当院での取り組みについて~

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横浜労災病院 内分泌・糖尿病センター 中井 一貴(なかい かずき)と申します。
横浜労災病院内分泌・糖尿病センターは、平成3年の開院以来、副腎疾患、特に原発性アルドステロン症(PA)におけるリーディングホスピタルとして、様々な取り組みをしてきました。今回はPAに対する当科での取り組みについてご紹介いたします。

 

当院の内分泌・糖尿病センターについて

当科では、種々の内分泌疾患や代謝疾患を幅広く診療しておりますが、そのうち副腎疾患、特にPAの症例数は非常に多く、毎年約150名(毎週約3名)の患者が副腎静脈サンプリング(AVS)の検査を受けており、その数はおそらく国内随一と考えます。現在までにその症例数は1,000例を超えており、蓄積された症例データの解析も行い、多くの国内・国際学会での発表・英文論文の発表など、情報発信も積極的に行っております。

 

原発性アルドステロン症(PA)について

PAは二次性高血圧の原因となる代表的疾患です。副腎からの自律的アルドステロン過剰分泌が原因です。PAは高血圧の5~15%前後を占めるコモンディジーズですが、本態性高血圧に比して、脳卒中、心筋梗塞、心房細動、心肥大、腎障害等の臓器障害が起こりやすいため、早期発見、早期治療が望まれます。そしてPAのうち、病変が左右の副腎のどこか一部に局在している場合は、外科的治療で治癒が期待できるため、その病型・局在を正しく鑑別することが重要な疾患です。図1にPAの診断と治療アルゴリズムをお示しします。

 

図1:原発性アルドステロン症(PA)の診断と治療アルゴリズム

 

 
 

当院でのPA診療の特徴

当院PA診療の大きな特徴は、超選択的副腎静脈サンプリング(SS-AVS)を実施していることです。通常の副腎静脈サンプリングでは、副腎中心静脈(副腎血流の出口)からの採血しか行いませんが、SS-AVSではさらにその上流の副腎内支脈までマイクロカテーテルを挿入し、副腎の区域ごとに採血を行います(図2)。この技術により、副腎のどの位置からアルドステロンが過剰に分泌されているのか?が明らかになります。例えば、腫瘍支脈からの採血では非常にアルドステロン値が高いものの、他の区域枝からのアルドステロン値は低い場合、その腫瘍がアルドステロン産生腺腫である、と診断されます。

 

図2:超選択的副腎静脈サンプリング(SS-AVS)

ではSS-AVSはどういった点で有用なのでしょうか?

① 副腎部分切除術
一つは、この検査により、副腎部分切除術の適用が判断できる、という点です。上記のように、“腫瘍支脈からの採血では非常にアルドステロン値が高いものの、他の枝からのアルドステロン値は低い”場合、副腎全てを摘出する必要はなく、腫瘍のみを切除すれば良いことになります。当院の泌尿器科は、副腎の部分切除術を施行できる数少ない施設であり、健常副腎の温存を期待して来院される方も少なくありません。(さらに、患者さんのご希望や状態に応じて、単孔式腹腔鏡手術も実施しています。)ただし、副腎腫瘍が肉眼で確認できない(≒CTで腫瘍が確認できない)場合や、副腎腫瘍の位置が中心静脈と近い場合は、片側副腎全摘術の適応となります。

② 両側副腎アルドステロン産生腺腫を診断
二つ目は、通常のサンプリングでは両側性のため特発性アルドステロン症と診断されるケースでも、SS-AVSにより両側にアルドステロン産生腺腫があると診断できるケースがある、という点です。SS-AVSでは副腎のどの部位からアルドステロンが過剰産生されているのかを明らかにできますので、左右に副腎腫瘍があり、それらの部位からのアルドステロン高値が証明できた場合、両側アルドステロン産生腺腫の診断となります。病勢が強い場合は、どちらかの腫瘍を切除することにより、病勢の改善を図ることも可能です。さらに、両側腺腫にそれぞれ部分切除を行うことで完治したケースも複数経験しています。

③ 中心静脈では診断できない病変の特定
三つ目として、左右の副腎中心静脈からアルドステロン高値が証明できないものの、腫瘍支脈からの採血によってのみ、アルドステロン高値が証明できるケースも稀にあります。

以上のように、SS-AVSは、副腎内のアルドステロン分泌病態を正確に把握し、より適切な治療選択を行うために、優れた検査法であると言えます。

 

どのような患者さんを紹介するべきか?

当院へPAの精査で紹介される患者さんはとても多いですが、大きく二つにわかれます。一つは近隣のクリニック等プライマリケア医の先生方から紹介される患者さんで、もう一つは全国各地の総合病院から紹介される患者さんです。

プライマリケア医の先生方の場合
クリニックでは負荷試験やCT検査が困難な場合も多いと思います。スクリーニング陽性を満たせば紹介していただいて良いかと存じます。とくに、“手術による治癒を目指したい”と希望される患者さんは、積極的にご紹介いただければと存じます。手術を希望しない患者さんであれば、ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬を主とした内科治療を最初から行っても問題ないと考えます。ただ、患者さんが希望する治療というのは、医療者からみた適切な治療とは異なる場合もございます。特に、アルドステロン症の病勢が強い(著明な低K血症がある、アルドステロン値が非常に高い)など、手術の可能性を検討すべきと考えた症例では、一度当院への受診を勧めてみて下さい。方針について迷うケースも、遠慮なくご紹介ください。

総合病院の先生方の場合
ある程度検査(負荷試験やCT、副腎静脈サンプリング)を行った上で、さらに専門的な精査治療を求めて紹介されるケースが多いかと思います。副腎静脈サンプリングが行えない医療機関では当院等へご紹介ください。当院では超選択的副腎静脈サンプリングを施行しており、その利点は前項に記載した通りです。先生方の病院で副腎静脈サンプリングを行ったものの、結果に疑問が残る場合なども是非ご紹介下さい。また、患者さんが副腎部分切除術を希望される場合も、是非ご紹介下さい。

当院での診療実績を振り替えると、低カリウム血症合併、副腎腫瘍合併、血漿アルドステロンが非常に高い、といった典型的なPA像を有する症例では手術適用となる可能性が高いです。最終的には副腎静脈サンプリングの結果、アルドステロン症の病勢、患者さんの希望などを総合的に考慮して、適切な治療方針を決定致します。

 

図3:当院へご紹介いただきたいPA症例

 

当院への原発性アルドステロン症患者さんご紹介方法

当科ではPAをはじめとした副腎疾患の患者さんのための専門の紹介枠を設けております。紹介状をお渡しされた患者さんご自身または紹介元の医療機関より、当院予約センター(045-474-8882)へお電話いただき、内分泌・糖尿病センターの「副腎紹介枠」を予約したい旨をお伝えください。
その際、緊急性の判断等のため、紹介元の先生方から紹介状の控えをFAXいただくよう、お伝えしております。予約がとれましたら、当院地域医療連携室(045-474-8344)へ紹介状の控えをFAXいただけますと幸いです。

新横浜に位置する当院は、新幹線でも飛行機でも比較的アクセスが良い立地であり、実際に日本中全国から患者さんがいらっしゃっています。時期によってはサンプリングの予約が埋まっており、実施まで少々お時間を頂く場合もありますが、たいていは数か月以内での予約が可能です。

 

先生方へのメッセージ

今回の記事では、当院でのPA診療の取組みについて説明させて頂きました。上記のような症例や、PAの診療方針について疑問がある場合は、是非当院へご紹介下さい。

最後になりますが、当院では、PA手術後や内服治療開始後には、紹介元の先生方や地域の医療機関へご通院いただき、長期的なご診療・フォローアップをお願いしております。そうしたフォローアップ期間に、当院でも並行して検査等を実施し、当院受診時の情報提供や治療方針の提案など、密な連携を行うことを心がけております。ぜひ先生方と協力して、患者さんにメリットの大きい、満足いただける診療を行っていきたいと考えております。

先生方からのご紹介をお待ちしております。今後ともよろしくお願い申し上げます。

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