はじめまして、横浜労災病院 呼吸器外科部長の山本 健嗣(やまもと たけつぐ)と申します。
当科では肺癌、縦郭腫瘍等の胸腔内腫瘍、気胸、膿胸、胸部外傷等の疾患を扱っております。年間230症例程度の手術を行っておりますが、その中の約50~60例が自然気胸です。自然気胸は手術のみではなく初診時からのマネージメントにより治療期間が大きく変わります。
今回は当科で行っている自然気胸の診断および治療について解説致します。
山本 健嗣
呼吸器外科部長
気胸とは何らかの原因で肺に穴があいて胸腔内に空気が溜まり、肺が虚脱している病態です。原因が外傷によるものは外傷性気胸、それ以外のものは自然気胸と呼びます。肺の虚脱により呼吸苦や胸痛の症状がでます。
自然気胸は、原発性気胸と続発性気胸に分けられます。原発性気胸は10-20歳台で長身やせ型の男性に多く見られます。原因は肺尖部のブラであることが多いです。自然に穴がふさがり軽快しても再発を繰り返すことが多いのが問題となります。
続発性気胸はCOPDや間質性肺炎等の肺疾患に伴い発症する自然気胸です。ご高齢の患者様が多く、併存疾患の程度にもよりますが、原発性自然気胸よりも症状が強く出ることが多いです。また女性に多く発生する気胸もあります。月経時に気胸になる月経随伴性気胸です。胸腔内に子宮内膜症がおき月経時に肺の表面の子宮内膜組織が脱落して気胸を起こすと言われています。手術に加えてホルモン療法を行うことがあります。
ほとんどの気胸は胸部X線で診断が確定します。ごく軽度の気胸はCTでないと診断できない場合があります。
胸部X線にて肺の虚脱度をみて重症度を判定します。肺尖部の位置が鎖骨より頭側にある場合を軽度、全虚脱またはこれに近いものを高度、軽度と高度の中間程度を中等度と3段階に分けられます(日本気胸・嚢胞性疾患学会ガイドラインより)。高度気胸がさらに増悪すると胸腔内の陽圧が高まり緊張性気胸となります。
ブラの有無の確認や、COPDや間質性肺炎等の基礎疾患の確認の目的でCTを撮ることがあります。手術前はスライス厚1mmでCTを撮影しています。小さなブラを見逃さない為に必要と考えています。
気胸発症時の治療は主に虚脱度で決定されます。軽度の時は外来で経過観察を行います。中等度および高度の場合は胸腔ドレナージの適応となります。多くの病院では入院し胸腔ドレーンを留置しますが、当院では携帯型胸腔ドレナージキット(ソラシックベント)を留置し外来通院してもらうことが多いです(症状が強い場合や血胸を伴う場合等は入院になります)。ソラシックベントは約4.3㎜のシリコン製のドレーンで前胸部から挿入します。局所麻酔で10分程度の処置です。その後外来通院しながら空気漏れが止まるのを待ちます。ソラシックベントを使用すると、患者様ご自身でも空気の漏れが確認できます。ソラシックベントを留置したまま通学や通勤も可能です(激しい運動や入浴はできません)。
外来で胸腔ドレナージは安全なのかとの疑問もあるかと思います。当院では2002年4月から2021年3月までに1124件のソラシックベントによる治療の経験があります。出血(1例)やドレーン逸脱(5例)、再膨張性肺水腫(2例)、ドレーン閉塞(4例)等の合併症がありました。いずれも発生リスクは1%以下です。当院は24時間救急外来に受診可能ですので困ったことがあればいつでも受診して頂けます。
原発性自然気胸に対し手術を行うのは、①胸腔ドレナージにて空気漏れが1週間以上継続する場合、②再発時、③両側気胸、④血胸を伴う場合、⑤再発を極力さけたいとの希望がある場合です。自然に肺の穴が塞がり気胸が軽快した場合の気胸再発率は初回で50%程度、2回目以降で70%程度であるのに対し、手術後の再発率は4-5%です。
2か所の傷で胸腔鏡を使用して手術を行います。自然気胸の原因は肺表面のブラの破裂ですので、ブラを切除する手術を行います。自動縫合器でブラを切除した後、吸収性のメッシュシート(ネオベールシート)をかぶせることで再発を防いでいます。全身麻酔で約1時間の手術です。
当院での手術は2泊3日のクリニカルパスで行っています。入院日は採血やCTなどの検査や、手術の説明を行います。入院2日目に手術を行います。午前中の手術であれば夕食はでます。翌日朝に胸腔ドレーンを抜去し午前中に退院となります。
続発性自然気胸はCOPDや間質性肺炎等の重症度や、肺の虚脱度、空気漏れの程度により総合的に手術適応を決めています。手術適応がない場合は胸膜癒着療法や気管支鏡下気管支塞栓術を行うこともあります。
自然気胸は10台~20台の若い患者様が多く、受験を控えた高校生や就職前の大学生、また海外出張前の社会人の方等もいます。何の誘因もなく突然の発症する疾患ですので、外来での胸腔ドレナージや短期の入院等、なるべく日常生活に支障がないような診療に心掛けております。
全国約5000のDPC病院の気胸手術の入院期間は平均で約11日です。2018年、2019年の気胸(手術あり)の平均入院日数ですが、当院では3.8日、4.2日でその短さは全国トップでした。入院期間が少なく早めに仕事や学校に復帰されたい患者様がいましたら是非、当院へのご紹介をご検討ください。ご紹介の際は、自然気胸は呼吸器外科で初診より担当致しますのでよろしくお願い致します。