横浜労災病院 耳鼻咽喉科 部長の塩野 理(しおの おさむ)と申します。
当科では耳鼻咽喉科に関わるほぼすべての疾患に対する診療を行っております。
その中でも手術治療を専門としており、耳、鼻、咽喉頭、顔面神経や甲状腺に対して年間600~900件の手術を行っています。
今回は、近隣の診療所からご紹介いただき、実際に内視鏡手術を行った鼻副鼻腔疾患症例を2例紹介いたします。
内視鏡手術の進歩に伴い、当院では高解像度の4K内視鏡モニターシステム、ナビゲーションシステム、マイクロデブリッターや新しいパッキング素材などが導入されています。
紹介する症例は、好酸球性副鼻腔炎と鼻副鼻腔腫瘍です。
いずれの症例においても手術治療は重要な位置を占めており、細心の注意を払いながら手術に臨んでいます。
塩野 理
耳鼻咽喉科部長
近年、好酸球性副鼻腔炎の患者さんが増加しており、手術治療に至る慢性副鼻腔炎の1/3程度は好酸球性副鼻腔炎と言われています。
好酸球性副鼻腔炎の特徴として、マクロライド療法に抵抗性であることや内視鏡手術後に鼻茸が再発することが挙げられます。
当科での好酸球性副鼻腔炎に対する診療のフローチャートを示します。
ここで大切なのは、副鼻腔の複雑な構造を単純化するために緻密な手術が必要であること、術後の鼻茸再発に対してこれまではステロイド薬の全身投与が中心であったものが、バイオ製剤を用いることで副作用が少なく、良好なQOLが得られるようになったことです。
当科でバイオ製剤を投与している好酸球性副鼻腔炎症例は15例を数え、いずれの患者さんも良好な成績が得られています。
症例1はこれまでに6回もの手術が行われ、最後の2回は当科でDrafⅢ型(拡大前頭同手術)を行っています。
前頭洞の完全閉塞はないものの、炎症による頭痛と頭重感が遷延していました。
鼻副鼻腔腫瘍の場合は、診療の流れは好酸球性副鼻腔炎ほど複雑ではありません。
鼻副鼻腔腫瘍に対する診療のフローチャートを示します。
まずは初診時の内視鏡所見によって、その場で生検するか、画像検査の後に生検するか判断します。
ポイントは、易出血性かどうかです。
出血しにくい場合には、その場で病理組織検査用の検体を生検し、診断をつけます。
そして画像検査を追加し、摘出術を検討します。
内視鏡や吸引管が少し触れただけでも出血する場合、外来で生検するのは危険です。
出血がコントロールできなければ、そのまま緊急入院になってしまうかもしれません。
そのような場合は、先に画像検査を予約します。
造影剤による増強効果が強い場合や動脈相で造影される場合、外来での生検は行いません。
易出血性腫瘍の存在部位を画像検査で確認した後、手術を行って確定診断をつけます。
病理組織学的検査で確定診断がついたら、治療に移ります。
全摘できている場合でも、必要があれば追加治療を行います。
症例2は外来で生検し、病理診断は内反性乳頭腫でした。
画像検査で腫瘍は上顎洞膜様部から上顎洞内に存在していたため、内視鏡下に梨状口縁を残した鼻腔側壁切除を行いました。
歯齦部を切開せずに摘出できるため、通常の内視鏡手術後と同様に翌日から経口摂取が可能で2日後にガーゼを抜去し、5日の入院期間で退院できました。
術後1年経過して再発を認めていません。
ご紹介くださった診療所の先生へお願いするケースとして、良性腫瘍の内視鏡手術が終わってある程度粘膜が上皮化したタイミングで受診していただき、鼻副鼻腔処置をお願いすることがあります。
この場合、当科でも3か月から半年ごとに再発の有無について経過観察していきます。
なお悪性腫瘍の場合には、そのまま当科でこまめに経過観察することが必要です。
当院は横浜市北東部地区の中核病院として、広い医療圏を担っています。
地域の診療所の先生方が少しでも悩む症例があれば、ぜひご紹介ください。
訴えが強いものの本当に病気があるのかどうか、病気があればその治療はどのように行っていくか、患者さんと密にコミュニケーションを取りながら診療して参ります。
また、治療しているのに良くならない、他院で治療してもらったのに良くならないなど、お困りの症例もご紹介ください。