MENU

地域中核病院で行う放射線治療

  • お知らせ

横浜労災病院 放射線治療科の松井 とにか(まつい とにか)と申します。
当科は脳腫瘍以外の放射線治療を行っています。
今回は2022年7月に稼働する新しい治療装置と当科の特色をご紹介します。
当院は勤労世代でアクセスの良さから仕事前後に通院したい方や、高齢者で併存疾患の高度管理が必要な患者さんを多くご紹介いただいておりました。
今年1月より装置の更新に伴い院外からの紹介受付を制限しておりましたが、7月より従来の2台体制に戻り、これまで通り地域の先生方からのご紹介を積極的にお受けできる状態となりました。
是非お気軽にご紹介をいただけますと幸いです。

 

当院の放射線治療装置のご紹介

当院には2台の放射線治療装置(直線加速器:リニアック)があり、当科はこれらを用いて脳腫瘍以外のがん治療を行っています。
がん以外の良性疾患でも難治性の甲状腺眼症やケロイド術後の再発予防目的で治療適応になる場合もあります。

リニアックとは体外から皮膚を通過させて体内にある病変に放射線(X線・電子線)をあてる体外照射に用いられる一般的な装置です。
当院にある1台は2014年に導入されたTrueBeamSTX(通称ノバリス)で小さな病巣の形状にあわせた細やかな照射野形成が得意な反面、対応可能な照射野サイズが最大22cmと上限があります。
そのため、当科では前立腺癌や早期肺癌など比較的小さな腫瘍や限局した頭頸部癌のIMRT(強度変調放射線治療)などに利用しています。
一方、2022年7月に新規稼働するTrueBeamは最大40cmまでの照射野形成が可能なため、直腸癌術前など広範囲の照射に適しています。

どちらの装置もIGRT(画像誘導放射線治療)システムを用いて精度の高い位置照合を行うことでIMRTやSRT(定位放射線治療)といった高精度治療にも一般的な体外照射にも対応できます。
そのため、患者さんの病態に応じた装置を選んで治療を行うことが可能です。

 

Image courtesy of Varian Medical Systems, Inc. All rights reserved.

Image courtesy of Varian Medical Systems, Inc. All rights reserved.

  

当院で放射線治療を行うメリット

TrueBeamとTrueBeamSTXは全国の大学病院やがんセンターといったハイボリュームセンターにも数多く導入されている機種です。
同じ装置があれば理論的には同じ治療が可能ですが、ハイボリュームセンターとそうでない施設の違いは治療スタッフの人数です。
大学病院やがんセンター以外では常勤医1~2名という施設がほとんどで、中にはTrueBeamがありながら常勤医不在の施設もあります。
従って患者さんの紹介先を考える際は、パソコンやスマホと違い「何の機種が入っているか」より「どんな常勤医がいて、どのような治療を行っているか」が重要になります。

例えば、小線源治療などリニアック以外の特殊機器を組み合わせた治療は人手の多いハイボリュームセンター以外では困難ですが、乳癌の術後照射など一般的な放射線治療は経験あるスタッフが一定数いれば実施可能なので、地域中核病院の方が症例数は多い場合も珍しくありません。
当院で放射線治療を行うメリットとして以下の点があげられます。

 

① 患者さんのライフスタイルにあった治療日程が可能

スタッフ人数が限られている以上、無限に患者数を増やすことはできません。
言い換えれば装置1台あたりの患者数に余裕があるので、開始日や治療時間に関する患者さんの要望には可能な限り対応するようにしています。
また、当院は新横浜から徒歩8分と交通の便が良好な立地にあり、仕事前や仕事後に通院したい現役世代にもお勧めです。

 

② 高度な管理が必要な併存疾患にも同一院内で対応可能

高齢になるとがん以外の併存疾患(心疾患、腎不全、精神疾患等)をもつ患者さんも増えます。
治療中も他院での投薬治療などは同時並行していただけますが、専門施設でないと対応困難な場合は一時的に当院当該科に紹介することで同じ院内で安心して治療を受けていただくことができます。

 

事例紹介

【症例】
60代女性、左乳癌温存術後、ペースメーカー留置後

【現病歴】
腋窩リンパ節腫大を主訴に近医受診、前医で左乳房部分切除+腋窩廓清術施行しました。
病理はTriple negative、リンパ節転移陽性のため術後補助療法必須でしたが、洞不全症候群で当院でペースメーカー留置の既往があり、化学療法は某大学病院に依頼されました。
紹介先ではアンスラサイクリン回避レジメンで開始するも副作用のためタキサンも減量して化学療法終了し、残存乳房とリンパ節領域への術後照射目的で当科に紹介されました。

【問題点】
残存乳房+領域照射はどこの施設でもほぼ定型的に行われる治療ですが、この方のペースメーカーは左前胸部皮下、即ち照射対象である左乳房直上に留置されていました。
ペースメーカーが直接照射野に含まれる放射線治療はガイドライン上原則禁忌で、最新装置でIMRT等の技術を用いても許容されません。
依頼をお断りするか、受けるなら照射前にまず本体を照射野外に移動させる必要がありました。

【対策と経過】
当院でペースメーカーフォローしていた循環器内科医(現不整脈科部長)にコンサルトしたところ、ペースメーカーは本来電池寿命がくれば交換するものですが留置から長期間経過すると癒着して抜去できない場合もあり、それにより治療開始が遅れる(再発)リスクがありました。
一方、患者さんのペースメーカー依存度は低かったので、万一故障した場合に適切な対応がとれる体制を整えておけば不利益を被る確率は低い、という理由で本来禁忌ながらペースメーカーはそのままで放射線治療を行うことを提案されました。
患者さんには想定されるメリットとデメリットを全て説明し、納得の上で当院での治療を希望されたため、毎日MEさんにデバイスチェックしてもらいながら左乳房と鎖骨上窩に50Gy/25fr照射を行いました。
治療後5年以上経過しましたが乳癌は無再発、約50Gy照射されたペースメーカーもいまだに設定変更されることなく正常に動作しています。

 

この方は最善の経過を辿りましたが、これは本来禁忌であり他の人にも勧められる方法ではありません。
それでも、こうした特殊症例に対する治療法選択にがん以外の専門家からも十分なサポートがえられることは当院の強みであるといえます。

 

先生方へのメッセージ

放射線治療はがんの根治から緩和まで幅広い分野に適応があります。
ただし、患者さんを診察しないと判断しにくい面も多いので、迷ったらまずは相談目的でもご紹介下さい。
その際、以下の2点にご留意いただけますようお願い申し上げます。

 

① 外来通院できる方

当科は入院病床を持たないため、外来通院できる方をご紹介下さい。
禁忌でなければ外来化学療法やホルモン療法を他院で並行して行うことも可能です。
同時併用の場合、副作用が何の影響か判断に迷う場合もありますので、内容がわかれば事前にお知らせ下さい。

実際にご紹介いただくことが多いのは乳癌術後照射の患者さんです。
2019年時点で日本放射線腫瘍学会医師会員の女性比率は18%(日本女性放射線腫瘍医の会調べ)だそうですが、当科にはその数少ない女性専門医が常勤でおります。
治療に直接携わる診療放射線技師にも女性を配置していますので安心して治療を受けていただけます。

また、がんの骨転移の疼痛緩和照射など1回で終わる治療もあります。
訪問診療中でもご家族などが患者さんを連れてきていただければ外来治療の適応になります(過去に実績あり)。

 

② 一定時間体勢保持できる方

治療時間は1回10~15分程度のことが多く、その間動かないでいられることが必要です。
治療計画時になるべく苦痛の少ない体勢で治療するよう配慮しますが、疼痛の強い方はご自身で事前にレスキューを使うようにして下さい。
認知症があっても毎日送迎する人の手配ができ、治療中はスタッフの指示に従って決められた姿勢を維持できる方なら適応となります。
先生方からのご紹介をお待ちしております。

一覧へ戻る