初めまして、横浜労災病院 耳鼻咽喉科 部長の塩野 理(しおの おさむ)と申します。
当科では耳鼻咽喉科に関わるほぼすべての疾患に対する診療を行っております。その中でも手術治療を専門としており、耳、鼻、咽喉頭、顔面神経や甲状腺に対して年間600~900件の手術を行っています。
今回は、手術治療を含めた副鼻腔炎治療をご紹介いたします。
塩野 理
耳鼻咽喉科部長
副鼻腔炎は文字通り副鼻腔に生じる炎症ですが、その原因は多岐にわたり、正しい治療に結び付けるにはなかなか難しいことがあります。
まずは問診です。いつ頃からどんな症状があるのか、感冒や歯科治療などがきっかけとなっていないか、これまでにどのような検査や治療を受けたことがあるのかなど、詳細に尋ねます。とくに鼻出血を繰り返している場合には、鼻副鼻腔腫瘍が隠れていることがあり、注意が必要です。またアレルギー性鼻炎や気管支喘息の既往は大切です。
検査としては、副鼻腔CTが基本となります。軸位断、冠状断、矢状断の3方向が必要です。腫瘍が疑われる場合、副鼻腔MRIも検討されます。炎症やアレルギーの有無なども検査する必要があります。
以上から副鼻腔炎の原因を含めた診断を行います。そして治療方針を立てます。好酸球性副鼻腔炎か、それ以外の副鼻腔炎であるかによって、治療方針が大きく変わってくるため、好酸球性副鼻腔炎かどうかを見極めることが大切です。
近年、好酸球性副鼻腔炎の患者さんが増加しており、手術治療に至る慢性副鼻腔炎の1/3程度は好酸球性副鼻腔炎と言われています。
好酸球性副鼻腔炎は、副鼻腔粘膜に生じた気管支喘息と言える病態で、鼻茸を伴う両側性の慢性副鼻腔炎です。気管支喘息に合併することが多く、症状として嗅覚障害が早期から生じます。マクロライド療法や去痰薬などの一般的な副鼻腔炎に対する内服薬はあまり効果がありません。気管支喘息と同様に、ステロイド薬の全身投与が効果的です。血中好酸球比が高く、鼻茸に著明な好酸球浸潤を認めます。
好酸球性副鼻腔炎は、問診、鼻内所見、採血(血中好酸球比)、副鼻腔CT検査、そして鼻茸の病理組織検査で診断されます。
近年、好酸球性副鼻腔炎の診断基準が定められ、重症度として軽症、中等症、重症に分けられます。好酸球性副鼻腔炎の中等症、重症は、難病申請を行うことができ、認定されると医療費の負担が軽減されます。当科では、難病申請の可否の判断や申請書類を作成しています。
どのような原因であっても、手術でよくなる可能性がある場合は副鼻腔を手術します。数十年前は、副鼻腔炎の手術と言えば歯齦部(上の歯茎)を切開して上顎洞粘膜を剝がし取る術式でした。現在は、内視鏡を用いて副鼻腔の手術を行います。鼻腔と副鼻腔との交通を大きく開放したり、細かい隔壁を切除して大きな空間にしたりすることで、副鼻腔と鼻腔を単洞化します。溜まった膿を洗い流すことができ、再発の場となる隔壁をなくすことで、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸再発を予防できます。
昨年度から日本鼻科学会による日本鼻科学会認定手術指導医制度が施行されています。これは、内視鏡を用いた副鼻腔手術を中心に、鼻科手術全体の安全性を向上させる目的で始められました。現在は暫定指導医の認定が行われているところで、当科では来年度の申請を行う予定です。
副鼻腔は眼窩や頭蓋底と接しているため、ひとたび手術の際に副損傷を生じると、患者さんにとって大きなデメリットが生じます。これを予防するため、内視鏡手術の支援機器が発達してきています。
病的粘膜を吸引しながら切除する、マイクロデブリッターを用いることで、正常粘膜を保護し、安全な鼻茸切除を行うことが出来ます。近年では回転数が高く、ブレードの強固なものがあることから、副鼻腔の開放も同時に行うことが出来ます。
磁場式ナビゲーションシステムを併用することで、危険な構造物(頭蓋底が低い、前後の篩骨動脈が浮いている、視神経管が突出している、過去に眼窩吹き抜け骨折の既往があるなど)を損傷することなく、1ミリ単位で周囲の病変を処理することが出来ます。
前述したように、好酸球性副鼻腔炎は術後に再発することがあります。再発した鼻茸にも、ステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン30㎎/日より10日ほどかけて漸減するなど)が効果的です。それ以外では、効果は劣るものの通常の副鼻腔炎に対する治療薬や鼻洗浄、点鼻ステロイド薬などが用いられます。
気管支喘息治療には、いくつかのバイオ製剤が使用されます。好酸球性副鼻腔炎にも、バイオ製剤を投与することができます。厳密には「鼻茸を有する慢性副鼻腔炎」に適応が通っていますが、好酸球性副鼻腔炎の中等症以上と考えていただいて良いでしょう。
好酸球性副鼻腔炎には、抗IL-4/IL-13抗体であるデュピルマブが投与されます。当科では10例ほどの好酸球性副鼻腔炎の患者さんに対するデュピルマブの投与経験がありますが、ほとんどの症例で鼻茸の縮小や消失、嗅覚障害や鼻閉の改善を認めています。
バイオ製剤の欠点は、薬価が高いことです。しかしながら、好酸球性副鼻腔炎の難病指定を利用することで、わずかながら患者さんの負担を減らすことができます。
再発した鼻茸にステロイド薬の効果が認められた場合、好酸球性副鼻腔炎の難病申請を行うこととなります。申請が通れば、バイオ製剤の投与に対するハードルが下がります。
当院は横浜市北東部地区の中核病院として、広い医療圏を担っています。地域の診療所の先生方が少しでも悩む症例があれば、ぜひご紹介ください。訴えが強いものの本当に病気があるのかどうか、病気があればその治療はどのように行っていくか、患者さんと密にコミュニケーションを取りながら診療して参ります。
また、治療しているのに良くならない、他院で治療してもらったのに良くならないなど、お困りの症例もご紹介ください。