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不安を抱える患者と家族へ最適な治療を ~中核病院としての「小児外科医療」への取組~

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はじめまして、横浜労災病院 小児外科部長の菅沼 理江(すがぬま りえ)と申します。
当科はこどもセンター(小児科・新生児内科)の一部として、外来・入院診療を行っております。小児外科の日常疾患の多くは当院での治療が可能です。不安を抱える患者様とご家族へ手術適応、手術方法、代替療法など、適切な情報をわかりやすく説明し、治療至適時期を逸しないための配慮を心がけています。
本日は当科で最もご紹介の多い疾患である「鼠径ヘルニア」と「臍ヘルニア」の治療についてご紹介いたします。当院では開院以来、未熟児・新生児医療に力を入れており、在胎26週以降の早産児のケアや、重症新生児仮死に対する低体温療法など、重症児の治療を行っております。

 

菅沼 理江

菅沼 理江
小児外科部長

 

1. 鼠径ヘルニアについて

鼠径ヘルニアは小児外科で最も多い疾患で、罹患率は正期産児の1-5%、早産児の15-25%とされています。

 

診断と適応

最新のガイドラインでは超音波検査による確定診断が推奨¹⁾されており、当院では鼠径ヘルニアでご紹介いただいた全患者様に外来で超音波検査を行っています。

治療の原則は手術ですが、新生児期に認められた腹膜鞘状突起開存症例の約80%が生後8ヵ月ごろまでに自然治癒を得られるという報告²⁾もあり、新生児・乳児例は外来で超音波検査によるきめ細やかなフォローアップを行い、嵌頓のリスクを慎重に回避しつつ生後9ヵ月をめどに手術の可否を決定しています。

 

手術法

鼠径部切開法と腹腔鏡下手術があり、当院では腹腔鏡下手術(LPEC: Laparoscopic Extraperitoneal hernia Closure)にも対応しています。LPEC法は3mmポートと2mm鉗子、専用の針(19G)を用いて経皮的にヘルニア門(内鼠径輪)を腹膜外で閉鎖する方法です。 

交通性陰嚢水腫にもLPEC法の適応があり、乳児も安全に行うことができます。腹膜症状突起が対側も開存している場合には両側同時手術が可能なため、鼠径法と比較し術後対側発症率が低いことが利点です。麻酔は全身麻酔に加え神経ブロックや局所麻酔を併用し、十分な疼痛管理を行っています。

 

診療フロー

ご紹介いただいた患者様は、以下のフローで治療にあたります。

当院にご紹介いただく場合は、紹介状持参による予約センターでの初診予約および連携医療機関からの連携室を通じた初診予約を通常の初診外来窓口としています。嵌頓など緊急を要する場合は代表番号(045-474-8111)にお電話いただき、「救急受診希望」の旨、お伝えください。

紹介の判断に迷われた場合には、まずご連絡いただければと考えておりますので、これまで当院にご紹介したことがない先生もご安心ください。
小児鼠径ヘルニアの場合は、ご連絡から1週間以内に外来受診予約を、手術は平均1か月程度で入院を受け付けております。

 

2.臍ヘルニアについて

臍ヘルニアは新生児の10-30%、早産児の75%に発生するといわれ、日常診療で頻繁に遭遇する疾患ですが、自然治癒率が高く、嵌頓発症率が低いことから、長年経過観察または手術療法が基本とされてきました。近年、臍ヘルニアに対する圧迫療法の有効性が報告³⁾され、本邦では2014年から乳児に対する保存療法として指導料が算定できるようになりました。

 

治療法

臍ヘルニアの治療法には圧迫療法と手術療法があります。当院では患者様の年齢や希望に応じて、適切な治療法を提案しています。圧迫療法の適応は乳児期のため、当院では1歳未満でご紹介いただいた臍ヘルニアの患者様には、積極的に圧迫療法を行っています。特に、3か月未満で圧迫療法を開始した群で有意な効果を認めている³⁾ことから、早期に治療を開始することが重要です。適応に悩むような小さな臍ヘルニアでも、お気軽にご紹介いただけますと幸いです。 

圧迫療法で改善が得られなかった症例や、1歳以降にご紹介いただいた患者様には、2歳をめどに手術療法を提案しています。ヘルニア門が閉鎖した後の「臍突出症」の場合、その形態に応じて当院形成外科とも連携して治療を行っています。すべての患者様とご家族様に満足していただける臍形を目指して、わかりやすい説明と丁寧な対応を心がけています。

 

圧迫療法

圧迫療法に用いる圧迫材料には、ガーゼ、綿球、スポンジ、圧迫材などがあります。当院では直径1.5cm以上の大きなヘルニアには臍ヘルニア圧迫材パック®(ニチバン社製)を、軽快してきたヘルニアまたは1.5cm未満の小さなヘルニアにはスポンジ(エラストン®)による圧迫療法を行っています。

初回は外来で圧迫療法をご家族に指導し、1か月以内の外来フォローアップで接触皮膚炎の有無や圧迫効果判定を行います。不適切な圧迫は腸閉塞の危険性があり、安全な手技が獲得できるよう指導には十分な時間を費やしています。臍の陥凹と超音波検査によりヘルニア門の閉鎖が得られるまで定期的に外来を受診していただき、圧迫療法を継続します。圧迫療法終了後も再発することがあるため、治癒まで責任をもって診療させていただきます。

 

手術療法

当院では小児外科で一般的な臍内下縁弧状切開法による臍ヘルニア手術を行っています。圧迫療法後の臍ヘルニアは余剰皮膚が小さく、圧迫療法未施行例と比較して、術後に高い整容性を得られることも圧迫療法の利点のひとつです。1歳以降の患者様もご家族のご要望に応じて治療法を相談いたしますので、安心してご紹介いただけますと幸いです。 

 

診療フロー

ご紹介いただいた患者様は、以下のフローで治療にあたります。 

当院にご紹介いただく場合は、鼠経ヘルニア同様、下記の通りご連絡ください。
前述の通り、早期の治療開始が重要となりますので、紹介に迷われるような場合でも、まずはご連絡をいただきたいと考えております。

小児臍ヘルニアの場合は、ご連絡から1週間以内に外来受診予約を、手術は平均1か月程度で入院を受け付けております。圧迫療法は初診時から開始しております。
その他、治療にお困りの臍炎や臍肉芽腫のご紹介も承っておりますので、お気軽にご相談ください。 

 

3. 先生方へのメッセージ

横浜労災病院は急性期医療や専門性の高い医療を行う地域の中核病院として、地域の診療所や一般病院との連携を推進し、紹介患者様の受け入れや外来患者様の逆紹介のご案内に取り組んでいます。救急においては、横浜市小児救急拠点病院に指定されており、小児救急疾患については救急救命センターで24時間365日小児科医が対応しております。小児外科疾患にも対応しておりますので急性虫垂炎、腸重積症、鼠径ヘルニア嵌頓など救急疾患をご紹介頂く場合は小児救急担当医へご連絡いただけますと幸いです。 

当科では、本日ご紹介した鼠径ヘルニアや臍ヘルニアだけでなく、小児外科の日常疾患の多くに対して治療が可能です。2020年までの5年間で400件以上の手術を実施しました。停留精巣・遊走精巣、肛門周囲膿瘍、習慣性便秘、他施設で治療後の小児外科疾患を有する患者様も積極的に受け入れております。
大学付属病院や小児専門病院との連携も充実しており専門的な小児外科の知識と情報をもとに、疾患により高次治療施設への適切な選定や紹介が可能です。こどもの身体的・精神的苦痛を低減し、安全で低侵襲な医療の提供をお約束いたします。 

不明な点や、ご要望などございましたら、ご意見を頂戴できますと幸いです。今後も地域の皆様の「小児外科医療」に貢献できるよう、全力を注いで参ります。どうぞ、小児の外科的診療を必要とする患者様がいらっしゃいましたら、当院をご紹介くださいますようお願い申し上げます。

 

4. 参考文献

1. 長江逸郎: 小児-診断. 日本ヘルニア学会ガイドライン委員会編: 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン.pp86-92, 金原出版, 東京, 2015.

2. Toki A, Watanabe Y, Sasaki K, et al: Adopt a wait-and-see attitude for patent processus vaginalis in neonates. J Pediatr Surg, 38: 1371-1373, 2003.

3. 菅沼理江, 土岐彰, 千葉正博, 他: 臍ヘルニアにおける手術の適応とタイミング. 小児外科, 46: 841-846, 2014. 

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