MENU

    • トップ
    • 地域連携NEWS
    • 漏斗胸治療は患者さんとのコミュニケーションが第一歩 ~金属バーを用いたNuss法での矯正法 ~

漏斗胸治療は患者さんとのコミュニケーションが第一歩 ~金属バーを用いたNuss法での矯正法 ~

  • お知らせ

初めまして、横浜労災病院 形成外科 山本 康(やまもと やすし)と申します。
当科では体の表面に関する外傷や腫瘍、先天疾患・その他後天的に生じた変形などの治療とそれらの治療によって生じた組織欠損を修復する”再建”を行っております。
今回はその中でも漏斗胸に対する治療の取組をご紹介いたします。

 

山本 康

山本 康
形成外科部長

 

様々な原因で起こりうる漏斗胸

主に肋軟骨と胸骨の変形により起こる胸部正中の陥凹変形の総称です。
家族性因子のほか、マルファン症候群のような結合組織の脆弱によるもの・幼少時の胸部外傷や手術など様々な原因で起こりうる疾患で、単一の独立した病気ではありません。
従来1000人に一人程度にみられると言われてきましたが、元々機能的な異常を伴わない患者さんが多く、そもそも疾患を認識していなかったり、認識していても治療の必要性を感じないで日常生活を過ごしたりしている方など、ごく軽度の漏斗胸も含めれば実際にははるかに多いことが予想されます。

 

様々なバリエーションがある漏斗胸の症状

前胸部の陥凹によって、レントゲン上心臓が左側に偏移し、軸偏移などの心電図異常がみられます。中には息切れや胸痛などの症状を訴える方もいますが、治療が必要なほどの心肺機能異常をきたす方は多くありません。
上述の通り原因が一つではなく、胸郭変形のパターンも心窩部に陥凹が限局したもの、前胸部全長に渡るもの、左右非対称があるものなどバリエーションがあります。
また、生下時には殆ど目立たず、成長とともに陥凹が顕著になってくることもあれば、生下時より陥凹があり、それほど大きな変化がなく成長してゆく事もあります。左右の非対称は通常成長と共に目立ってくる場合が多くみられます。

 

治療適応と当院での治療方法

一般に心肺機能異常がある方、胸郭の縦横径比であるHaller indexが3.25以上の方に手術適応があるとされていますが、外見上のコンプレックスを持っていたり、陥凹変形が原因で内向的な性格になってしまっている方などは、形態の矯正治療を行うことで今後の社会生活を良い方向へ大きく変化させる可能性があるため、患者さんの希望があれば相対的な手術適応として広く設定されるべきだと考えます。

病院に紹介する適切なタイミングは最後にご紹介いたしますが、軟骨が成熟して硬くなった後では十分に矯正しきれないことがあり、小児期にご紹介いただくのがベストだと考えています。
当院にご紹介いただければ、症状が乏しい方には「治療をしない」という選択肢も含め、コミュニケーションを重ね共に治療を検討していきますのでご安心ください。

当院では内視鏡ガイド下で金属バーを挿入して矯正を行うNuss法を行っています。この方法では胸部前面に大きな傷痕がつかず、手術時間も2時間程度であり、従来行われていた前胸部を開き肋骨を離断して形態矯正する手術法と比べてはるかに短時間で施行できます。 

変形の程度によって2~3本の金属バーを肋間から胸腔内に挿入して留置します。金属バーの留置期間は通常3年です。 

 

入院・療養期間

Nuss法術後は肋軟骨をバーの矯正力で歪ませるため、痛みのコントロールが必要です。通常は硬膜外麻酔を術後3~5日継続し、その後離床が可能になってゆきます。
入院期間は術後1週間から2週間ぐらい、退院してからは少しずつ日常生活の負荷を増やしてゆき、術後3カ月で運動ができるようになりますが、金属バー留置中は接触の恐れが高い運動は肋骨の骨折やバーの露出の原因になりうるため避けていただきます。

 

治療至適時期

Nuss法は従来の肋軟骨を離断する方法と違い、肋軟骨の成長に悪影響を与えないため、軟骨が軟らかく矯正に反応しやすい小児期に治療をすることができます。

循環・呼吸障害を伴っているケースでは年齢を問わず早期に手術が必要ですが、主に形態の矯正が目的となる場合、現在は思春期直前に手術を行うのが主流です。肋骨の成長が最も大きい思春期に合わせて矯正を行うことで、成長による変形も最小限に抑えることができるとされています。一方で、左右の非対称がある場合は、非対称が進行する前に10歳頃に手術を行うこともあります。

もちろん成人後でも治療は可能ですが、軟骨が成熟して硬くなった後では十分に矯正しきれないことがあり、バー抜去後に若干の後戻りが起こることもあります。

 

当院へ紹介のタイミング

近年Nuss法が普及したことで、漏斗胸の治療は以前と比べてはるかに受け入れやすいものとなりました。しかし、手術が手軽になったとはいえ、術後の痛みによる安静療養期間は比較的長いこともあり、患者さんやご家族の治療に対する理解とモチベーションを高めてゆく必要があります。手術自体は思春期直前に行う傾向にありますが、可能ならば幼少時より数年かけて外来でコミュニケーションを重ねてゆくことが好ましいと思います。またバー留置中の3年間は激しい運動の制限は必要となるため、学生時代(特に部活など)の生活プランをイメージしていただくことも必要です。

そして患者さんの中には症状が乏しく治療を望まない方も珍しくありません。
漏斗胸という病名を提示されたことで不安を抱いて受診された方へ早期に正確な情報を提供し、ご本人やご家族の希望・判断により治療をしないことも選択が可能であることを知ってもらい、ご安心頂くことが必要だと思います。
その為幼少でもなるべく早期にご紹介くださることをお勧めいたします。

一覧へ戻る