MENU

    • トップ
    • 地域連携NEWS
    • 不整脈に対するカテーテルアブレーション ~アブレーション治療はどこまで進化するのか?~

不整脈に対するカテーテルアブレーション ~アブレーション治療はどこまで進化するのか?~

  • お知らせ

横浜労災病院 不整脈治療科 長田 淳(おさだ じゅん)です。
今回、当院における循環器診療を紹介する機会をいただきました。前回に引き続き循環器第二弾になります。不整脈を大きく分けると、徐脈性不整脈と頻脈性不整脈に分けることができます。前回当院の小和瀬より徐脈性不整脈に対する植え込み型心臓電気デバイスの紹介を致しました。そこで、今回は頻脈性不整脈治療のカテーテルアブレーションについて紹介したいと思います。

 

長田 淳

長田 淳
不整脈治療科部長

 

カテーテルアブレーションとは

アブレーション(ablation)とは除去、切除という意味の単語です。つまり、不整脈に対するカテーテルアブレーションとは、カテーテルを用い不整脈の原因を取り除く治療ということになります。
さて、カテーテルアブレーションが可能な不整脈にはどういったものがあるのでしょうか。
以下に列挙してみます。 

  • 期外収縮(心房・心室)
  • 心房頻拍・粗動
  • 心房細動
  • 房室結節リエントリー性頻拍
  • 副伝導路症候群
  • その他の上室性頻拍(洞結節リエントリー性頻拍・接合部頻拍など)
  • 心室頻拍(特発性・器質的心疾患による)
  • 心室細動

現在、ほぼすべての頻脈性不整脈に対してカテーテルアブレーションが可能となっています。
もちろん、まだまだ治療成績が十分でないものもありますが、日常の診療で遭遇する多くの不整脈はカテーテルアブレーションの効果が期待できます。

2019年度における当院でのカテーテルアブレーションの内訳は以下の通りです。患者さんが非常に多い心房細動がダントツとなっています。

さて、アブレーションの方法としてはどのようなものがあるのでしょうか。

  • 高周波アブレーション
  • クライオ(冷凍)アブレーション
  • バルーンアブレーション

高周波は以前より行われている通電方法で、今でもほとんどの不整脈に利用可能です。現在では、コンタクトフォースガイド付きのイリゲーションカテーテルが主流となっています。先端を生理食塩水で冷却することにより血栓生成防止が可能となっています。また、カテーテル先端圧をモニタリング可能であり、心臓損傷のリスクもかなり軽減されています。

クライオ(冷凍)アブレーションは冷凍凝固することで組織を焼灼する治療法で、房室結節リエントリー性頻拍に保険適応となっています。当院でも使用可能で、房室ブロックのリスクが高い症例に使用することがあります。

通常の高周波アブレーションでは冠静脈洞入口部付近を焼灼しますが、心拍によってカテーテルが動くため、意図せず比較的広範囲の焼灼となります。一方、クライオアブレーションでは組織に冷凍固着するため、心拍があっても同じ部位を焼灼し続けることができます。そのため、房室結節が近いところでは焼灼範囲をコントロールできるクライオアブレーションは利点があります。
下図の通り、クライオアブレーションカテーテルは通常の高周波アブレーションカテーテルと形状は全く同じです。

バルーンアブレーションは心房細動に適応となります。バルーンにより心房細動の治療の核になる肺静脈隔離を行います。使用できるバルーンにはクライオバルーン、ホットバルーン、レーザーバルーンの3種類があります。当院でのバルーンアブレーションはクライオです。バルーンを用いる肺静脈隔離のため、比較的手技が容易で手技時間の短縮が期待できます。当院では発作性心房細動に対してクライオをファーストチョイスとしています。

当院では、不整脈の種類によってアブレーション方法や3Dマッピングシステムを使い分けています。
その際、患者さんの年齢や体型、心臓超音波や心臓CTといった事前の検査を参考にしています。そのように症例毎に最適な治療法を選択し、治療成績を向上させるようにしています。また、心房細動などの一般的な不整脈だけでなく、心室頻拍や心室細動のような重症例にも積極的に取り組んでいるのが特徴です。 

 

3Dマッピングシステムでより安全な治療を実現

現在、日本全国でカテーテルアブレーションが盛んに行われるようになっています。
日本が高齢化社会となり、カテーテルアブレーション総数の約7割を占める心房細動患者が増加の一途となっていることが最大の要因です。しかし、カテーテルアブレーションに用いる3D(三次元)マッピングシステムが進歩し、治療の標準化が進んだこともカテーテルアブレーション件数が増加している大きな要素です。

現在使用できるマッピングシステムには3つ(CARTO、Ensite、RYHTHMIA)あり、それぞれに機器の特徴があり、得意とする不整脈があります。3Dマッピングシステムを利用することにより、カテーテルの位置情報を3Dで正確に把握することができます。合併症の軽減と治療成績向上にもたらした影響は計り知れません。 

当院では、現在3つの3Dマッピングシステムが使用可能です。3Dシステムを使用することにより、不整脈の電気の流れを可視化することができるため、複雑な回路をもつ不整脈の治療も可能にしています。どの3Dマッピングシステムともカテーテルの位置情報はかなり正確であり、合併症を最小限にし安全な治療に貢献しています。

 

当院での治療スケジュール

当院におけるカテーテルアブレーション時の入院期間は3~4日となっています。それでは、最もカテーテルアブレーションの多い心房細動を例に入院の実際をご説明します。
心房細動でご紹介頂いた患者さんがアブレーション行うことになった場合、外来にて心臓CTを撮影します。腎機能などの問題がなければ造影CTを行いますが、単純CTでも可能です。CTを撮影するのは3Dマッピングシステムで使用するためと左房内に血栓がないことを確認するためです。あとは入院するだけになります。当院では入院翌日がカテーテルアブレーションになりますが、DOACなどの抗凝固薬は継続のまま治療を行います。患者さんの負担軽減のため、静脈麻酔で治療を行います。心房細動に対する手技時間は60-90分前後となります。手技終了後すぐに覚醒し、6時間ほど安静を行います。その後退院まではフリーになります。アブレーションに伴う重篤な合併症の頻度は現在非常に低くなっています。

術後の抗凝固療法継続はCHADS2スコアで決めています。0点であればやめることが多く、2点では継続となります。1点は患者さんごとに決めています。術前に内服していた抗不整脈薬は術後3-12ヶ月で中止しています。

 

心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応と今後の展望について

現在のガイドラインは以下の通りです。

これは症状のある心房細動の治療チャートです。では無症候性はどうでしょうか。このガイドラインではクラスⅡbとなっています。まだ積極的に推奨するレベルとはいえません。無症候性心房細動の場合、下記のように悩まれることも多いのではないでしょうか?

  • 本当に症状がないのか?患者さんが慣れてしまっているだけではないのか?
  • 今後、慢性化や脳梗塞・心不全のリスクとならないか?
  • 無症候性だからといって本当に放っておいていいものか?

心房細動に対するカテーテルアブレーションは比較的新しい治療のため、これまで有効性を示すエビデンスは多くありませんでした。しかし、最近になって続々と新たなエビデンスが出ています。近い将来、無症候性にもアブレーションを積極的に施行するようになると考えています。

 

先生方へのメッセージ

どのような不整脈でも患者さんがお困りであればいつでもご紹介ください。患者さん毎に最善の対応をしたいと思います。不整脈専門医の初診外来は月、水、金になりますが、他の曜日にご紹介頂いても構いません。
不整脈単独でなく、虚血性心疾患や心臓弁膜症など他の循環器疾患を合併していることも多く、総合的な対応が必要な場合があります。また救急での対応が必要となる場合もあります。当院は循環器医師が24時間病院内に待機しておりますので、時間外でもご相談ください。

一覧へ戻る