横浜労災病院 外科の岡﨑 靖史(おかざき やすし)と申します。横浜労災病院は横浜市北東部の医療圏を担う地域中核施設であり、当科では癌を中心とした消化器系疾患ならびに腹部救急疾患の診断と治療を主に扱っています。今回は、横浜労災病院外科の診療内容についてご紹介いたします。
消化器癌(食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝胆膵悪性腫瘍)の治療は、癌を再発させないことが重要であり、癌を含めて周囲の組織を広く切除する根治切除術が基本となります。患者さんの身体に対する負担は非常に大きくなりますので、臓器機能の低下を最小限に留めるために、適切な切除範囲や再建方法を決定しなければなりません。がん診療連携拠点病院として、癌診療に携わるすべての診療科と連携を取ることによって手術の必要性を判断し、治療効果が最大となるような戦略を練っていきます。
毎週水曜日には消化器病センターカンファレンスを開催し、消化器内科と合同で適切に癌を診断、最終的な治療方針を決定していきます。対象の臓器と癌の進行度によって、キズが小さく身体の負担が少ない腹腔鏡手術から血管切除再建を要するような高難度拡大手術まで行っています。
また、糖尿病や心血管疾患、呼吸器系合併症など様々な併存疾患を有する方でも、麻酔科、集中治療科との連携で安全に術中術後の管理を行うことが出来ますので、安心してご紹介ください。また必要に応じて腫瘍内科、放射線科と協力して、化学療法や放射線療法などの周術期補助療法を適切に行い、患者さんの状況に応じて最もふさわしい集学的治療を実践しております。
月曜から金曜まで毎日が手術日であり、定時手術以外の緊急手術も随時対応しています。もちろん切除不能と思われる進行癌や再発癌に対しても根治治療を目指して、可能な限り外科的アプローチを検討します。苦痛や不安を抱えている方に対しては、より苦痛の少ない生活を送っていただくため、緩和ケアチーム、心療内科が介入して、ご希望のある患者さんには退院後も外来での継続した身体的および精神的なサポートを行っています。
癌に対する基礎的、臨床的な研究が進むにつれて、手術を含めた治療法は臓器毎に細分化され、外科医はより専門的な知識や技術が要求されてきています。以前は常識と思われていた治療法が10年後には時代遅れとなることも稀ではありません。
当科スタッフには、日本外科学会の認定医・専門医・指導医や日本消化器外科学会専門医・指導医の資格をもった経験豊富な医師が在籍し、日本肝胆膵外科高度技能指導医や日本内視鏡外科学会技術認定医なども有しています。積極的に国内外の学会に参加し、常に最新で安全な治療法を取り入れて診療にあたっています。
日本ではじめて腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われてから40年が経ちますが、その後の技術革新により多くの診療科に普及し、腹腔鏡手術が第一選択となっている疾患も多くなっています。従来の開腹手術と比べて身体に対する負担が少ないことから術後の回復が早く、早期の退院に寄与しています。
一方で、高度の技術と専門性を要し、不用意な手技が予期せぬトラブルを来しかねませんので、当科では内視鏡外科学会技術認定医が中心となって安全な腹腔鏡下手術を食道癌、胃癌、大腸癌などの悪性疾患から胆石症、虫垂炎、鼠径ヘルニア、腹壁ヘルニア、胃・十二指腸潰瘍穿孔、腸閉塞など様々な疾患に取り入れています。術後の退院は、胃癌、大腸癌が術後7~10日目、胆石症、虫垂炎が3~4日目、鼠径ヘルニアで術翌日が平均となっています。特に虫垂炎や胆石症などの良性疾患では、症例に応じて整容性と患者満足度が高い単孔式手術も行っています。
ロボット支援下手術は、米国で開発された内視鏡手術支援ロボット「da Vinci」を用いて行う手術であり、当院では2013年9月より泌尿器科の前立腺癌手術で導入し、外科領域では2018年12月より直腸癌に対するロボット支援下手術を開始しております。
日本人の死亡原因の第1位は悪性新生物ですが、部位別では結腸癌と直腸癌を合わせた大腸癌が第2位(男性3位、女性1位)となっており、高齢化と食生活の欧米化に伴って増加の一途にあります。
低侵襲で患者の予後も良好なロボット支援手術は、今後益々需要が高くなってくる治療法になると思われます。
直腸癌手術では腹部に径8~12mmほどのポートを6箇所程開け、おなかを炭酸ガスで気腹し、ポートから鉗子や内視鏡などの手術機器を挿入して手術を行います。これまでの腹腔鏡下手術は直線的な鉗子を用いる為、空間の狭い骨盤内では鉗子の動きに制約があり、腹腔鏡下手術特有の技術と工夫が必要でした。ロボット支援下手術では、ポートから関節運動が可能なロボットのアームをおなかの中に挿入し、執刀医は離れた操作部から鮮明な3D画像のもと体の中のロボットアームを動かして手術を進めます。癌の摘出範囲は従来の開腹手術と同様で、直視下には確認できない深く狭い骨盤内でも、3Dカメラとロボットアームを駆使して直感的な操作が行え、より緻密で低侵襲な手術が可能となりました。開腹手術と比較して傷が小さいため痛みが軽度で、手術中の出血量は少なく、術後の回復、退院が早くなるなどの利点があります。繊細な手術を行うことで根治性を高め、直腸癌手術で損なわれ易い排尿機能、性機能の温存が期待できます。従来の腹腔鏡手術と比べても、後遺症の少ない身体に優しい手術となっています。直腸癌は病変の部位により低位前方切除術、腹会陰式直腸切断術、内肛門括約筋切除術などが行われ、時に人工肛門造設術が必要となることがありますが、いずれの術式でもロボット支援下手術が適応となります。
肝臓、膵臓、胆道の悪性疾患手術は、消化器外科領域の中で最も高い難易度が要求されます。 当科は開院以来肝胆膵疾患の診療に重点を置いており、近年は消化器内科との協力体制により、比較的早期に発見されて手術適応となる肝胆膵悪性腫瘍が増えてきています。原因不明の上腹部痛や発熱、黄疸、糖尿病の急な増悪、CEA・CA19-9 などの腫瘍マーカー高値、腹部超音波・CT・MRIで胆管や膵管の拡張や腫瘤影などの所見がございましたら、是非ご紹介下さい。
日本肝胆膵外科高度技能指導医が中心となって手術を担当し、主要血管に浸潤した癌であっても治癒切除が期待できれば、積極的に血管合併切除・再建術を行う方針を取っています。また局所浸潤や遠隔転移などがある切除不能癌においても化学療法を施行し、腫瘍の縮小や遠隔転移の消失が得られて手術可能となれば、根治を目指して積極的に切除を行っております。
救急救命センターを中心とした24時間365日の診療体制により、腹部救急疾患に対する診断を日々迅速に行い、治療に結び付けております。多発外傷など複数の診療科に及ぶ疾患の緊急手術を行うこともあり、協力体制は充分です。手術後の合併症に対する速やかな対応も可能であり、地域に根ざした総合的な外科診療体制を整えています。
今回ご紹介したように、当院では各診療科と綿密な連携をとりながら各患者さんの病状に応じたテーラーメード医療を行っておりますので、併存疾患を持たれている患者さんなど紹介に迷うケースであっても、安心してご紹介ください。
また、消化器病センターを設置しており、消化器内科と同じ部署で外来診療を行っています。手術適応を判断しかねる症例でも消化器病センター宛てにご紹介いただければ、こちらで各診療科に振り分けて診察していきます。
「最後まであきらめない治療」を当科のmottoとしております。お困りの症例やご相談ごとなどございましたら、外科部長 篠藤浩一(しのとう こういち)もしくは岡﨑まで是非ともご紹介下さい。
<予約申込票>
下記の当院ホームページURLより印刷し、ご使用ください。
https://www.yokohamah.johas.go.jp/community_medicine/introduce/