初めまして、横浜労災病院 整形外科の三好 光太(みよし こうた)と申します。
2回に分けて、当院整形外科の診療を紹介させていただきます。
横浜労災病院は平成3年に横浜市北東部中核施設として開設されましたが、全国の労災病院群のリーディングホスピタルとされており、高い医療レベルを整えています。
その中でも、当科は医師数18名(うち日本整形外科学会専門医11名)、整形外科病床数103床と院内随一であり、数多い横浜市内の基幹病院整形外科の中でも最大規模を擁しております。
三好 光太
整形外科・脊椎脊髄外科部長
当科では四肢の骨軟部原発性悪性腫瘍以外の“全ての整形外科疾患を対象”とし、急患の対応要請含め“断らない整形外科”を目指しております。
2019年度には新入院患者2,134名を受け入れ、年間2,016件の手術を実施しました。
診療においては、特に脊椎脊髄外科、手・末梢神経外科、人工関節外科、運動器外傷の4分野を主軸とし、いずれの分野も複数の専門医を擁し、高い診療レベルの維持に努めております。
十分な説明・低侵襲・高い安全性・早期離床・早期機能回復を心がけており、初診時からそれぞれの専門医が診療する専門外来も開設しています。
当科初診にあたっては、紹介状持参による予約センターでの初診予約および連携医療機関からの連携室を通じた初診予約を通常の初診外来窓口としていますが、外傷などの急患は救急部で受け入れを行い、さらに医療機関からの急ぎの紹介については、24時間当科医師が外線直通電話で依頼を受ける横浜労災病院整形外科医24Hダイレクトコール(070-6528-1257)を運用しております。
このダイレクトコールは医療機関からの依頼であれば、地域、施設内容や診療科に関わらず御利用可能であり、迅速な対応により高い評価を得ています。
初めまして、横浜労災病院 人工関節外科副部長の小泉泰彦(こいずみ やすひこ)です。
今回は、人工股関節手術(THA)と人工膝関節手術(TKA)について、患者への負担を最小限にすることを意図した当院の「術前計画」「手術手技」「術後鎮痛」「術後の理学療法」の取り組みを紹介します。
変形性股関節症、大腿骨頭壊死、関節リウマチなどの疾患で関節障害が進行して、運動療法や薬物療法などの保存的治療でも効果がなく、歩行や日常生活、社会生活で大きな障害をきたしている場合に手術を勧めています。
人工股関節手術成績は一般的にも安定していて、患者さんの満足度が高いと言われています。
<術前計画>
当院におけるTHAの術前計画では、全例にCTデータを利用した3次元による術前計画が可能となる、3Dテンプレートを使用しています。
個々の患者さん毎にCT画像より緻密な3次元モデルを再構築することで、臼蓋側ではカップの正確な設置位置やサイズなどを、また大腿骨側では適切なステムの種類やサイズ、大腿骨頸部骨切り位置など視覚的に多方面から観察しながら、最適な設置位置を計画することができます。
また、脚長やオフセットも正確に揃えるように計画することができます。患者さんへも3次元モデルを用いた完成イメージや治療内容の説明を行うことができ、安心して治療を受けていただくことが可能です。
<手術手技>
手術のアプローチでは、筋温存によるMIS(minimally invasive surgery:最少侵襲手術)を導入しています。筋肉と筋肉の間(筋間)から入り、筋腱を全く切離しないものです。
一部の変形が強い症例や重度の肥満症例では後側方アプローチで行っていますが、8割以上の多くの症例では側臥位前側方アプローチで行っています。
これは大腿筋膜張筋と中臀筋の筋間から進入するアプローチです。筋肉を温存することができるため、術後の歩行回復が早くなります。
手術中は股関節を伸展外旋内転させて脱臼させることで、手術操作を行っています
後方の筋肉やカプセルを温存することができるため、いわゆる後方アプローチの時に生じる屈曲内転内旋時の脱臼リスクを低減させることができます。
側臥位でのアプローチにより、術中に全方向(特に屈曲内転内旋、伸展内転外旋)の脱臼抵抗性を確認することが可能です。
手術の皮切は9cmから12cmです。無理に皮切を小さくすることで逆に皮膚や筋肉に損傷することがないように、患者さんの体格によっては皮切を延長しています。
手術中の出血量が少なくなるように、全例でトラネキサム酸による止血剤を術前後に静脈内に投与し、症例によっては術中回収血を使用しています。これにより、9割以上の患者さんは輸血を回避できています。短期間で両側を行う症例以外では、自己血貯血をしていません。
<術後鎮痛>
術後は痛みを最小限にしてリハビリが進むように、術中に関節周囲と皮下に局所麻酔薬による注射を行い、術後当日は鎮痛薬を定時に静脈内に投与して、術翌日からは内服、坐薬での鎮痛薬を使用しています。
<術後の理学療法>
術翌日から離床を開始して、当院理学療法士による指導の下に、立位・歩行訓練、関節可動域訓練、筋力訓練を開始していきます。
最初は平行棒内での歩行から開始して、歩行器歩行、杖歩行へと進めていきます。術後2週目で杖歩行、階段昇降訓練を行なって退院するのが標準的なスケジュールです。
リハビリが早い人ですと術後1日目から歩行器歩行、5日目から杖歩行が可能な患者さんもいますが、リハビリの進行具合は患者さんの状態(年齢やもともとの歩行能力など)により異なりますので、それに合わせて無理のないようにリハビリを進めていきます。また歩容の改善に向けた指導も行なっていきます。
変形性膝関節症(OA)、大腿骨内顆骨壊死、関節リウマチなどの疾患で関節障害が進行し、運動療法や装具療法、関節内注射、薬物療法などの保存的治療では効果がなく、歩行や日常生活、社会生活で大きな障害をきたしている場合には手術を勧めています。
<術前計画>
変形性膝関節症の程度に応じて、UKAとTKA、TKAも後十字靭帯を温存するCR(cruciate retaining)と後十字靭帯を切離するPS(posterior stabilized)のインプラントを使い分けるようにしています。
術前計画では人工膝関節でも人工股関節手術と同様に、3Dテンプレートを使用しています。
インプラントの設置位置やサイズを計画し、大腿骨と脛骨の骨切り量を事前に計測して手術に役立てています。
<手術手技>
人工膝関節手術(TKA)では、皮切は11〜14cmでmidvatus approachで行っています。
下肢のアライメントが良くなるように、術前計画に基づき正確な骨切りを行うようにしています。
また、正常膝と同様に内側がタイトで外側がゆるくなるように、適切な緊張が得られるように心がけています。
<術後鎮痛>
人工膝関節手術でも術後の痛みを最小限にしてリハビリが進むことが重要と考えています。
当科では麻酔科に協力してもらい、大腿神経ブロックと坐骨神経ブロックを術前に行っています。
術後2日目以降も鎮痛が得られるように大腿神経ブロックではカテーテルも入れていて、術後3日目に抜去しています。
また、術中には関節周囲と皮下に局所麻酔薬を注射し、術後は人工股関節手術と同様に鎮痛剤を使用しています。
そのため手術当日から膝にそれほど痛みを感じず自力で動かすことが可能となり、術前の可動域が悪くなければ手術翌日には屈曲100°以上も可能となる患者さんがほとんどです。
<術後の理学療法>
手術翌日朝にドレーンを抜去して離床を開始し、当院理学療法士による指導の下に立位・歩行訓練、関節可動域訓練、筋力訓練を開始していきます。
最初は平行棒内での歩行から開始して、歩行器歩行、杖歩行へと進めていきます。関節可動域訓練ではCPM(Continuous Passive Motion)という器械を併用していきます。
術後2〜3週で杖歩行、階段昇降訓練を行なって退院するのが標準的なスケジュールです。
当院でTHA,TKAを受けた患者さんの9割以上は自宅に退院しています。
しかし、高齢者で術前に歩行能力が著しく低下していた患者さんや、一人暮らしなどで早期退院が不安で長めに入院することでのリハビリを希望される患者さんには、回復期病院へ転院してのリハビリをお勧めしています。
当院の周囲には優れた回復期病院があり、当院のMSWが介入して患者さんの希望にあった病院をお探しするなど、患者さんを手厚くフォローする体制をとっております。
股関節・膝関節疾患で関節障害が進行し、保存的加療では十分な効果が得られず、日常生活や社会生活に困っている患者さんがいましたら是非ご紹介ください。
当院人工関節外科では上記手術以外にも、人工肘関節手術、手関節形成術、足趾形成術などの関節リウマチ患者に対する手術も行なっています。
近年の関節リウマチに対する薬物療法の著しい進歩により、関節リウマチ患者の手術件数は減っていますが、関節障害のため手術療法が必要な患者さんもまだいらっしゃいます。
関節破壊が進んで関節障害が生じ、日常生活に影響をきたしている場合には適切な時期に手術療法の介入が必要です。その手術時期は、整形外科のリウマチ専門医による判断が必要です。
手術時期が遅れると手術療法が困難になることもあります。関節リウマチでお困りの患者さんがいる場合でも気軽に御相談下さい。